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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.009 「電子書籍と著作権の入門セミナー」

電子出版の著作権管理技術セミナー

2012年06月19日 13:30-15:30
日本教育会館7階 中会議室

2.今後の取り組みに影響を与える諸動向について

[著作隣接権を中心とした動向について]

「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会(通称:中川勉強会)」ワーキンググループメンバー
 弁護士 桶田大介(おけだ だいすけ)氏

 

 出版社への権利付与に関して、検討の現状を大きく二つに分けてご紹介します。
 2011年12月に、「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議(通称:円滑化会議)」の報告書がまとめられました。この中で、出版者への権利付与については「「出版者への権利付与」、現行の制度における対応及び他の制度改正に係る(かかる)法制面における具体的な課題の整理等が必要であると考えられ、この点については、新たに専門的な検討を行うための場を設置するなど、文化庁が主体的に取組を実施することが求められる」とあり、これを受けて、文化庁では本年2月から検討会議が進められています。
 法制面における検討は、大きく二つに分けられます。著作権法の改正を行う形と、現行の法律のままで対応を進める方法です。
 著作権法改正も著作隣接権の創設だけではなく、出版権を電子にも拡大し、サブライセンスを可能にする考え方もあります。更に、出版社が海賊版を訴えられればいいということで、訴権付与の考え方もあります。
 法改正を行わず、現行制度を用いる場合は、著作権の譲渡契約があります。それ以外に、債権者代位権を用いて差止請求を行うことができるとの見解があります。
 文化庁の検討会議では、この二系統五つの論点について、検討が行われていると思われます。
 他方、印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会(通称:中川勉強会)は、2012年2月、「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(通称:三省デジ懇)に主導的な立場で関わった中川正春衆議院議員が、関係者がフラットな議論を行うことができる場ということで、議員勉強会という形で始められました。中川勉強会は、

① 書籍・電子書籍を統合した読書振興策のあり方。
② 日本の出版物・電子書籍を含む海賊版への対応などについて
③ 著作者と出版者の権利(出版者の役割)について

 の三点について、グローバル時代の印刷文化・電子文化のあり方について大局的な視点から率直な議論を行い、具体的な方策をまとめるのが目的で、出版者への権利付与のみを目的としたものではありません。
 文化庁の検討会についてはこれまでのところ、明確な結論や中間まとめは出ていませんが、中川勉強会では、「出版物に係る(かかる)権利」の名前として出版者に出版物に係る(かかる)権利を創設するのが適切であるとして、現時点では次の通常国会で議員立法を行うとの方向性が示されています。
 出版者への権利付与の起点は、1990年6月の著作権審議会第八小委員会の報告で、出版物の版面保護について、報酬請求権を新たに設けるとするものでしたが、当時は経団連等が懸念を表明し、結局法制化には至りませんでした。
 その後様々な動きがありましたが、改めて浮上の契機となったのは、2010年3月の三省デジ懇です。総務省・経産省・文化庁が合同で検討を始め、同年6月に報告書が出されました。
 円滑化会議では、「図書館・公共サービス」、「権利処理の円滑化」・「出版者への権利付与」という三つの主題が掲げられました。
 同会議の報告書では、出版者の権利付与について、電子書籍の流通と利用の促進、出版物に係る(かかる)権利侵害への対応という、二つの観点から検討されています。前者については、「「出版者への権利付与」が出版物に係る(かかる)権利処理の円滑化のための取組の実施を促すものであるなど、電子書籍の流通と利用の促進に対して、一定の積極的な効果をもたらすとする意見があった。」「「出版者への権利付与」に対する否定的な見解は示されていない」としています。他方、後者については、何らかの措置を早急に図ることが必要としつつ、「具体的な対応方策については、「出版者への権利付与」を含め、複数の選択肢が示されているところであり、そのメリット・デメリット等については十分に検討する必要性が確認された」とされています。
 この20年ぐらいで、上記の様な検討経緯がありました。
 ここで、出版者への付与が検討されている法的権利について、さまざまな呼ばれ方をされているので整理します。90年頃は「版面権」、文化庁での検討では「出版者への権利付与」、中川勉強会では当初「出版物原版権」、その後「出版物に係る(かかる)権利」となりました。そこで、以降は「出版物に係る(かかる)権利」と呼称します。
 基本的な考え方は、「紙と電子とに関わらず、ここの出版物を著作物のパッケージとして捉えれば、それに対して固有の法的な権利があるべき」であり、かつ、「このような出版物に関する権利は、その出版物を発行した出版者に与えるのが自然」というものです。
 出版物を出版する行為は、著作権者の許諾の範囲内において成されるものです。著作権者の許諾の下、出版物の流通と利用について、出版者が一次的な責任を負うことで、出版物の流通をより円滑にすることができるというのが基本的なコンセプトになります。
 出版者について、著作者を守り、育て、伝える上で一定の役割を認め、かかる役割と責任を担うからこそ、それに必要な権利を付与する。とすれば、このような責任を担う者であれば、それは誰しもが出版者であり、必ずしも出版事業者には限定されないはずです。出版の行為や出版物を実体面から捉えなければならないというのが一つ目のポイントです。
 二つ目は、一つの著作物について複数の出版物が存在し得るというものです。ある著作物について複数の出版行為が行われれば、そこには複数の出版物が成立し、出版物に関するそれぞれの権利は別個独立に成立します。数年前のネット法の議論のように、著作物の流通を担う者がワンストップでアクセスに関する権利を握り、権利者は報酬さえ受け取れれば良いという考え方とは違う、というのが二つ目のポイントです。
 三つ目は、著作隣接権は、著作権の上に二階建てのように乗ってくる権利であり、あくまで一次的な権利者である著作権者が優先され、明示のNoには背けないということです。明示のNoがない限りというのがポイントで、これまでは明示の許諾がない限りという考え方でした。社会的信用を有する主体が出版行為を行ったということは、基本的に著作者・作家の許諾を得ている。それがそのままの体裁で継続する方向であれば、基本的に著作権者の許諾を得ているという考え方です、一種の表明保証といえるかもしれません。
 四つ目は、制度だけでは分かり難い部分です。紙は、具体的な書籍・雑誌などが「有体物」として存在し、出版物に関する所有権が著作権と別に存在します。
 他方、電子では物がありません。ひたすらライセンスをしているだけです。著作者、出版社、電子取次、電子書店といった関係者の間が、いずれもライセンサー・ライセンシーの関係で繋がっていなければなりません。出版物に係る(かかる)権利は、これを出版者のところで一端ひとまとまりにしようというものです。
 その他、既存の出版物にさかのぼって権利が適用されることは想定されていません。
 出版物に係る(かかる)権利の基本的な考え方は以上です。
 中川勉強会では、更に次のような対応が必要という議論がされています。すなわち、権利の創設と合わせて検討・導入を要する事項として

 ①運用ガイドライン
 ②アクションプラン
 ③権利の公正な行使を担保するための仕組みづくり

 の三つが議論されています。
 ①は、関係者ができる限り広く参与される形で、運用のあり方を平場で議論し、その結果を運用ガイドラインの形で明文化することになっています。
 ガイドラインが出来ても、ルールを踏み外したり守らない方々は出るでしょう。そこで、③が必要になります。具体的詳細な議論はされていませんが、私的な紛争の仲介とか整理に関してのADR法※などを利用し、労働審判のような早急に結論を出す機関を設けて業界として運営するのが望ましいとされています。
 しかし、①と③のいずれも、実現に向けては様々な調整が必要です。そこで、行程表である②が求められます。なお、主要出版社らは既に、横の連絡を取り合い、意見のとりまとめ・調整を行う団体として、「出版広報センター」を立ち上げました。その中でいつまでに何をしなければいけないのかを検討しています。
 出版者への権利付与の他、中川勉強会で今後、検討を要するとされている事項は次の三つです。
① 出版物を巡る権利情報の集中管理のあり方
② 電子書籍流通における公共図書館・学校図書館等の活用
 ③出版社、図書館等が保管・所蔵する既存書籍のデジタル化の促進と利用の仕組み
 ①は、文化庁の報告書にある通り、出版物に関しての権利情報は集中管理をされるべきという議論です。なお、集中「管理」としているのは、集中「処理」との区別を明確にするためです。著作権について集中というと、必ずと言って良いほどJASRACの話が出されます。しかし、権利そのものを集中管理的なところが取り扱う話と、権利に関する権利情報を取り扱う話は分けて論じられるべきで、それぞれ別個に成立しうるものです。
 ③は、仮に権利が創設されたとして、流通が円滑化するのは、権利創設以降のものです。過去の膨大な資産・財産をどうデジタル化の時代に適合させるのか、そもそもデジタル化を進めるか否か、その点も検討を行わなければなりません。
 出版者に対する権利付与は、今後対応しなければならない様々な課題の一里塚に過ぎません。中川勉強会の最大の成果は、これまで1つのテーブルに付くことの無かった関係者の皆さんを集め、議論を行う環境を整えたことにあると思います。皆さまも率直なご意見・ご参加を賜れば幸いです。

※ADR法(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)

【講演終わり】

【本文終了】