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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.009 「電子書籍と著作権の入門セミナー」

電子出版の著作権管理技術セミナー

2012年06月19日 13:30-15:30
日本教育会館7階 中会議室

1.電子書籍の制作・流通に係る(かかる)著作権上の諸問題について

[実務の立場からの問題点について]

 角川書店 法務知財部 法務管理課 課長 沼上祐一郎(ぬまがみ ゆういちろう)氏

 

 出版契約は、2000年以前は書面での契約を結ばない・結びたくないというケースもありました。紙の契約であれば定価・部数・印税率が決まれば事実上の契約完了でしたが、電子書籍は別の権利なので契約締結をお願いすると「お任せするから、やってくれ」という方もいました。最近では契約の締結率が上がり、現在では契約書の捺印を拒まれる方は100人に1人もいない状況です。
 電子契約を扱う中で一番苦慮しているところとして、再販商品ではない電子書籍を扱うことに関する難しさがあります。公取にも確認をしましたが、現在のリアルな物としての再販制度にはなじまない、そういう制度では運用できないという回答でした。
 AppStoreやAmazonの参入に伴い電子書籍の価格はどんどん動いてきます。紙の価格は守られるが、電子は守れない。実際の値付けや卸売り価格をどうするか、著者への印税の払い方をどうすべきなのかという議論が起きています。
 これまでの電子書籍は、紙も電子も一次利用という感覚でしたので、希望小売価格に対するパーセンテージという同じ計算方法を使ってきました。実は、この2年ぐらいで、レベニューシェア方式の契約への切り替えが進んでいます。一冊あたりの印税額は、レベニューシェア方式で下がるケースもありますが、全体としてその作品の売り上げを大きくするための施策を講じるために切り替えています。
 紙の出版の契約形式は、旧来からの出版権設定契約・独占出版許諾・非独占契約を状況によって使い分けています。
 出版権設定契約は、法律上の権限は一番強いものの、電子書籍は対象外、サブライセンス不可など、実際の出版ビジネスに合致しないことも多くなっています。
 そのため、現在では物権的な権利にこだわらず、独占許諾契約(ライセンス)で解決を図る社も増えつつあります。
 独占出版許諾は、登録で対抗要件を持つ出版権とは異なり、第三者に対抗できませんが、サブライセンスの条項を入れられたり、広い利用許諾をまとめて取れたりというメリットがあります。
 非独占は、独占の部分が非独占になるだけで、契約次第でサブライセンス可能な出版許諾契約も可能です。
 これらが、紙の出版に関して最初に著者と結ぶ契約書です。この中に、翻訳やオンデマンド・電子・映像化・その他商品化を含めたり、二次利用部分の条件を決めたりしている社もあります。角川書店では、著作権法上での権利が違うので、利用に応じて個別に契約をしています。
 ここまでが著者との契約です。
 逆に電子書店との契約条件では、デバイスの機能向上や、ユーザーの意見・利便性等で当初の配信契約ではカバーしきれない、すぐには対応しづらいものもあります。
 デバイスフリーは、読者が1DLにつき1名であることが保証されているわけではなく、不特定多数に読まれてしまうというリスクがあります。
 一番難しいのが、無期限再DLの可否です。ユーザーの利便性のために認めてほしいという希望をよくいただきます。サービスとして当然許される範囲なのか、著者契約の許諾範囲を超えるものとなってしまうのか、その判断は非常に難しいです。現状の落としどころとしては、著者との電子出版契約が終了した場合には、直ちにもしくは3ヶ月以内の配信停止という条件がよく見られます。
 また、改訂版の扱いでは、仮に再ダウンロードをOKした場合に、差別表現や著者の希望で原稿を変えたときに勝手に上書きしていいのか。昔の版のものをもう見せたくない場合、上書きできてしまっていいのかなど、まだ議論が進んでいない部分です。無期限再DLの話では、こうした問題も触れてルールを決めなければいけません。
 配信地域も、全世界でやりたいと言われた場合は問題となります。弊社では、日本で作った日本版の書籍に関しては基本的に全世界で配信可能な契約にしています。もちろん、翻訳版は別です。昔は、配信地域を日本に限るという条件を出されるケースがありましたが、クラウド時代において、配信地域を厳密に限定するのは不可能と言えます。
 弊社の電子書籍契約は、複製・送信・口述(朗読)・上映(ディスプレイ表示)という範囲で許諾をいただいております。中には、自動読み上げを含んでいない契約や、それをいやがる著者もいると思います。電子書店が付加価値をつけて売ろうとするときや、デバイスの機能に乗る形で商売をしようと思うと、単純な複製・送信しか定義していない契約では対応が難しいと思います。
 次に電子書籍ビジネスの中で最も阻害要因となっているデジタル海賊版の話をします。私自身一日に100件ぐらい削除要請をすることがあります。ただ、仮に削除されても翌日か翌々日には復活することがありとても不毛な作業です。
 もし違法ファイルにアクセスしようと思えば検索すれば簡単にたどり着ける状況で、雑誌の発売日以前にスキャンしたものが出回っています。
 日本では、P2Pソフトを使ったものと、いわゆるまとめサイトで違法ファイルに誘導する2パターンがあります。
 P2Pによる侵害規模はそれほど多くはないのですが、各都道府県警から摘発のお話をいただいて、刑事告訴等の対応をとることもあります。
 侵害として最も困るのは、まとめサイトとかリーチサイトと呼ばれるものです。サイトの運営者自身は違法ファイルのアップを行っておらず、違法ファイルへのリンクを張り一覧で見せることで広告収入等を稼ぎます。このまとめサイトを根絶できればと常日頃考えていますが、法的には対応が難しい状況です。
 あるまとめサイトにリンクを切るように要請したときのことです。運営者から「著作権を侵害したファイルのDLを促進しているつもりはありません。半自動的にファイルリンクを公開しているだけです。また、違法ファイルのDLは音楽と映像のみが禁止されていて、マンガ・文芸などのファイルはこの限りではない。権利者は違法ファイルのリンク元にクレームをつける前に、違法ファイルそのものの停止を要請すべきだと思います。」といった反論を受けてしまいました。
 このまとめサイトは、仮に出版者に何らかの権利が付与されたとしても対応はできないので、文化庁・経産省に取り締まる方策について相談を行っています。
 海外は、スピードスキャンと呼ばれる侵害形態が主流です。以前は、スキャンレーションと呼ばれており、スキャンしたものに翻訳を付けたものです。①スキャン、②画像をきれいにする、③翻訳する、④パッケージしてアップする、など専門チームの分業制で、どれだけ速く違法ファイルを上げられるかスピードを競っているため、名前がスピードスキャンに変わりました。まとめサイト型もありますが、海外は直接閲覧型が多いと思います。閲覧数を増やすことで広告収入を得るという仕組みです。北米圏のサイトに削除要請や業界全体で警告文を送るなどの対応をしていますが、海外弁護士の費用やその負担、委任状の問題などの高いハードルがありはかどっていません。日本国内の根本を絶つことで、一定の効果を挙げたいと思っています。
 自炊問題では、不正データの流通やオークションで裁断本が売られているのが現状です。裁断本の販売は法的に取り締まるのは難しいので、スキャン代行を封じ込める形での対応を考えています。
 ご存じの通り作家7名によるスキャン代行業者の告訴を行いました。裁判は事実上の勝訴となりましたが、会社清算や認諾等での終結のため、我々が求める違法判決とはなりませんでした。
 現在、スキャン代行業者は、増えてはいませんが減ってもいない状況です。全く問題のない業者もありますが、明らかに怪しい業者もあるので引き続き調査を進めています。
 そして、こうした問題に直接対応できないのが出版社です。直接的な権利者ではないので、削除要請の専門部隊もなく、ほとんどが兼務担当者。ユーザーから、「ここに違法ファイルがあるので何とかしてください」と連絡がきます。合間を縫って削除要請を出すと先ほどのように反論されたり、海外では委任状という話に発展するなどして手間が増えるばかりです。
 現行法での対応では、まず著作権譲渡という話も出ますが、そんなことを了解する著者はいません。出版権は、電子の世界では対応できません。債権者代位は、正直、机上の空論です。今の法律では対応が難しいデジタル海賊版ですが、違法なものを排除して市場を作る為に仕事をしたいと思っています。
 最近では出版社中抜き論で、直接CPと契約をするとたくさんの料率がもらえるという話があります。紙の書籍では、売れる本で売れない本をカバーするという現状は確かにあります。紙は発行印税ですので、返品がどれだけあっても初版分の印税は確保されます。しかし、電子書籍では印税を保証するようなスキームはかなり難しいと言えます。実売印税の電子書籍でも、多様性を確保するために出版社が調整役として存在する必要があると思います。出版産業や出版の文化を大きくしていくためには、我々が確固たるプレーヤーとして明確な責任を持って対応していく必要があると、これまでも主張をしてきましたし、担っていきたいと考えています。
 こうした流れがあり、現在出版社への権利付与という話になっています。
 そこで、今後ものすごく重要になるのは契約です。隣接権は著者の許諾前提ですので、どういう契約をするかは非常に重要です。透明化された契約慣行がどんどん進んでいくことを期待しています。

 

【講演終わり】

【本文終了】