サイト共通メニューへジャンプ
会員向けメニューへジャンプ
News Letter Vol.006「電子出版アクセシビリティ・シンポジウム」
第二部 アクセシビリティ研究中間発表
・東洋大学特別研究発表
『「出版のデジタル化」におけるプラットフォームの分析』
2012年2月13日 13:00-16:45
如水会館 スターホール
発表者:
立命館グローバルイノベーション研究機構
山口 翔
東洋大学特別研究「出版のデジタル化におけるプラットフォーム分析」(tu-Rip)は出版のデジタル化・普及の実際を検証し、その現状と課題を明らかにすることを目的とした三年間のプロジェクトで、立命館大学のIRISと協力関係の下、進めています。
電子書籍出版のユーザビリティを考えるとき、書籍の選択・購入・利用という一連の流れにおいて、インターフェイスと利用体験が重要となります。しかし、日本の電子書籍出版市場はさまざまなストアが展開している状態にあり、インターフェイスや利用体験はプラットフォーム毎に大きく異なります。そこで、ユーザビリティを計る指標を作り、それに基づいてデバイス・ビューア・ストアを比較調査しています。
分析上の分類を考えたときに、日本の電子書籍プラットフォームは、大きく三つの形が考えられます。ストア、ビューア、デバイスまで一社が一体で展開する「垂直統合型」は、AmazonのKindleやSONYのReaderなどがあげられます。対して、様々なメーカーがAndroidやiOSなどを採用するデバイスにおいてストアとビューアを独自に展開する「水平展開型」が存在し、これが日本の電子書籍ストアの主流となっています。このときに、電子書籍ファイルをローカル側に保存して利用する「ローカル型」と、データをキャッシュして利用する「クラウド型」とが考えられます。前者は独自のビューアアプリをそれぞれデバイス毎に開発する形、後者はWebブラウザベースのビューアに、FLASHやMicrosoft Silverlightなどをもって展開する形ですが、こちらは今後HTML5に移行すると考えられます。
ただし、こうした分類はあくまで参考であって、デバイスとしてのKindleはAmazon社による垂直統合型ですが、Kindleストア側から見ると各OS向けにアプリを提供しており、実態として水平展開をしています。逆にReaderはReaderストア側からみると垂直統合ですが、Readerというデバイスからみると紀伊國屋BookWebや楽天Rabooといった他ストアも選べる水平型になります。
重要なのは、これらの差異がユーザビリティを考えるときにどう影響するかです。例えばKindleやiPadは、デバイスの機能としてアクセシブルな機能を搭載しており、デバイスもソフトもサービスも一体で設計されている「垂直統合型」の強みが現れます。しかし、垂直統合で無くとも、例えばiOSのアクセシビリティAPIに準じてアプリを作れば独自ストアでもiPadなどでVoiceOver機能を利用できます。ただ、開発側の視点に立つと、iOSやAndroidなどマルチ展開する際に、特定のOSのローカルな仕様を搭載するために開発リソースを割けるかという問題が発生します。また、東芝のBookPlaceは、ストア自体は水平展開ですが、dynabookやREGZA Tabletなど自社のデバイスのみ音声合成エンジン(TTS)「Speech Synthsis」が使える仕組みです。水平展開でも、ビューアに後付けでTTS機能を追加してユーザビリティを向上させるというアプローチが取れる例です。
この中で、日本市場においてストアが乱立している状況が問題なのかも考える必要があります。ユーザビリティを考えるときに、AmazonやAppleが提供する方法に乗る事が果たしていいのか。iPadがAPIを提供しているからといって、Appleの考えるアクセシビリティ機能がすべてではありません。iOSでは現状自分好みのinput methodや読み上げエンジンを選ぶこともできません。その意味で、多様性を日本市場は持っています。日本から、どのOSのどの端末であってもアクセシブルだということが売りの電子書籍ストアが出てきて、競争によってよりよいユーザビリティ・アクセシビリティを達成する、という期待ももてるのではないでしょうか。
その上での最適解が何かということで、総合的な調査を行っています。使い勝手のいいところ悪いところ・ストア・デバイス・ビューア・サービスを掛け合わせて、スペック情報とユーザビリティに関わる指標とを項目化しました。物理キーの有無や操作に関わる部分まで、またアクセシビリティ機能も項目として取り入れています。これらは現在、390×120項目にもなっています。これらを元に、傾向を洗い出して、例えば音声読み上げ対応の書籍をすぐに見つけられる、音だけでその書籍を買えるのかなど、そこまで分かる形にしたいと考えています。
【講演終わり】