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News Letter Vol.005 【講演録】電流協セミナー
「EPUB制作の現状報告」
2011年12月13日 13:30-15:00
日本教育会館701・702(中会議室)
「EPUB制作の実際」
想隆社 社長 山本幸太郎
弊社は、EPUBを製作し、米国のiBookstore経由などで実際に配信してきました。また和書を、英訳・仏訳し、電子の形で海外に流通させる仕事等も行ってきました。EPUB制作や、Appleとの契約・Kindle Storeとパブリッシュした経験がありますので、それらも交えながらお話したいと思います。
1.EPUB制作の実際
EPUBとは何かですが、気をつけておきたいことは、Webの子供でWeb技術に基づいているということです。XHTMLとCSS(スタイルシート)のサブセット(部分集合)でできています。
版面が固定していて、PDFで出してCTPや刷版という世界にいた方は、ページ単位とは全く違うと思ってください。簡単にいうと、EPUBは、ホームページの世界です。
EPUBの大きな特徴は、文字の大きさを自由に拡大縮小することができ、文字がフローして流れ込む「リフロー」です。ワープロソフト等では当たり前の機能で、これにページの概念がなくなったものです。
バイナリデータではなく、どんなプラットフォーム・OSでも写研でも使えるテキストという単純明快なデータ構造のテキストデータをベースとしているので、全文検索・リフローができるという利点があります。
今まで書籍は、書誌情報というメタデータだけで流通をしていましたが、これからは例えば「我輩は猫である」という一文で始まる小説は何かといった、文章の中身に対して全文検索が可能になります。
次に、ユーザビリティです。活字のサイズを変更したり、画面の明るさ・背景の紙の色を変えるなどでユーザビリティが高くなります。
そして、一番重要なのは、XHTMLあるいはXMLなど自動組版の資産が使えるところです。
現状、EPUBを取り巻く環境はどうなっているかというと、Kindle Storeも含めて日本を除く海外のすべてがEPUBで入校可能です。海外のメジャー、Kindle・Barnes&Noble・iBookstoreなどがEPUBを採用しているので、EPUBでさえ作っておけば電子書籍のワンソースになり得る状況が出来上がりつつあります。出版業界ではスタンダードになりつつあり、「InDesign」もCS5.5からEPUBに対応しています。EPUB3からは、Fixed Layout(版面固定)の考え方が議論されており、今回のTTS機能付きEPUBもFixed Layoutという拡張機能の部分を利用しています。(※AEBS News Letter Vol.4)
EPUBにすると何ができるのか、というとWebや大手の取り次ぎ・iBookstoreなど、さまざまな配信サイトにそのまま出せます。変換(コンバージョン)をすることで、XMDFやドットブックなど他のブックやWEBページにすることもある程度可能です。スマートフォンのアプリに組み込むこともできます。紙の印刷物のソースにするという考え方もあり、プリントオンデマンドも含めてワンソースになり得ます。
●EPUB制作の実際
EPUBを作る上での、日頃感じていることを雑感としてお話したいと思います。
デジタルコンテンツの世界にいて必要だと思うのは、深い知識よりも、広く浅くどん欲に知識を取り上げることです。例えば、海外配信する電子書籍に音楽を入れた場合の権利処理はどうなっているのかなど、オーサリングをしている人間が気づく必要があります。つまり、EPUBを作るだけで本当にいいのだろうかということです。EPUBはオープンな企画なので素人でも制作できますが、Webでも同じツールを使っても素人とプロでは明らかに違います。プロの仕事をするためには、ノウハウをいかに蓄積していくのかが重要です。
編集者は、ハイパーリンクがどう飛ぶのかといった動的な機能や、ページがないため章などを校正のときにどのように指定すればよいのかといったことをいかに分かりやすく指示したり、そういったことに気を使うことが重要になります。
電子書籍一般の課題として、リッチメディアコンテンツとして映像を入れる・音楽を入れる場合、どのようにするのがいいのか・何が必要になるのかはこれから学ぶ必要があります。
現状、電子書籍ニーズの9割は、すでに印刷されたものか、版面固定で作ったものを電子化するというものです。ボーンデジタルからEPUBは、増えてきていますがまだ少数派です。また、版面固定をどのように表現するかという問題もあります。
クライアントである出版社は、デジタルでデータを渡しても、プリントアウトして赤字を入れ、スキャンしてPDFにして返してきます。制作側としては、XHTMLもCSSも分かり、ちょっとしたスクリプト言語も書けることが技術的に求められる上に、このような校正記号の理解も求められるのです。
このような出版社と制作側とのギャップをどう埋めて新しい制作フローにするのかも課題です。
制作を取り巻く課題として、ビューワー・ハンドメイド中心の作業・Web技術を持った人材の確保があります。
未だにEPUBを作るというのは、WordのファイルをPDFに書き出すようにある種のコンバージョンではなく、ハンドメイドの工程が入ります。そこをいかになくすのかが重要です。
Web技術を持った人材の確保ですが、単にIllustrator・InDesign・QuarkXPressを使えればいいというわけではありません。タグが使え、テキストエディタを使いこなせること、出版・印刷のフローを理解し、Webやソフトウエア開発を行える人材の確保が問題です。
また、表示のスタンダードとするのは何かという問題もあります。EPUBを読むビューワーはたくさんありますが、本当に使えるのか、コンテンツホルダーが満足するものがあるのかというと、私はiBooksあるいはWebkit系のレンダリングエンジンぐらいだと思います。これから標準というものができあがってくるでしょう。
●TTS機能付きEPUBができるまで
電子出版制作・流通協議会の会報誌でTTS機能付きEPUBを作らせていただきました。
読み上げ機能付きのEPUBで、カラオケのように、いま読んでいる部分の色を変えて表示しながら読み上げが行われます。ページの終わりまでいくと、自動的に次のページに移り読み上げを続けます。
このEPUBを作ったのは、会報誌のVol.4がアクセシビリティに関する内容だったので、アクセシビリティをEPUBに埋め込んでしまおうと思ったためです。
アクセシビリティは今後ビジネスになるでしょう。例をあげると、図書館に視覚障害者専用のコーナーを作っても利用されません、障害者であることが分かってしまう・みんなと同じものを使いたいという理由からです。アクセシビリティを強化することで、子供も、老人も、視覚障害者も同じ本を使って、読書体験できるということが可能になってきます。
アクセシビリティーの課題としては、読み上げを実装しているリーダーが少ない、音声ファイルをどう用意するのか、音声ファイルとテキストを一つ一つひも付ける作業をどう工夫するかなどがあります。このような理由から、一冊の読み上げ機能を持ったEPUBを作るのに大変な時間とコストがかかります。
今回は、全自動化することで、それらを克服しました。
それから、今回のEPUB制作で、思わぬ副産物もありました。読み上げした音声エンジンをチェック中にある文章を読みあげるのに、音声合成エンジンが「EPUB」を「えぱぶ」と読んだところがありました。音声で聞くことで、読み違いだけではなく文章がおかしい部分もすぐに耳でわかります。これは、校正作業にも使えます。EPUBが将来紙のワンソースにもなると、音声での校正という可能性もでてくるのです。
音声合成エンジンには、朗読など情緒的なものは人間しかできないという批判もあります。しかし、説明書など内容が理解できればいいものもあり、これらへアクセスできないことの方が問題です。アクセスできるというアクセシビリティのマーケットを作り、享受できるようにすることが第一義です。
新しい市場の開拓としては、出版業界だけではなく、音声コンテンツ・オーディオブックなどがあります。これらのコンテンツを使って電子書籍にすることで、新しい市場の可能性があると思います。しかし、まだ課題もあります。今回の読み上げ機能はiBooksに依存しています。iPadは、タブレット市場で大きなシェアを持っていますが、一機種に限定した実装は好ましくありません。また、Kindleが持っているようなリアルタイムの音声読み上げなども含めて、今度データをどのように管理していくのかといった、ワンソースマルチユース戦略が大切になってくるでしょう。
【講演終わり】