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News Letter Vol.003 記事2 【講演録】電流協セミナー
「電流協が考える電子出版の未来像」
2.「電子出版ビジネスモデルのあるべき姿」
講師
コーディネーター
岸博幸 氏 慶応義塾大学大学院教授 電流協 流通員会 委員長
パネラー
高木利弘氏 株式会社クリエイシオン代表取締役
今野敏博氏 株式会社ブックリスタ代表取締役社長
小城武彦氏 株式会社トゥ・ディファクト代表取締役社長
美和 晃氏 株式会社電通 電通総研インサイト・センター テクノロジーイノベーション部 主任研究員
5月18日(水)16:15-17:45
場所: 如水会館 2F スターホール
電子出版ビジネスモデルのあるべき姿
岸:
これから議論をする内容は結論がない言いっぱなしのものになると思います。電子出版のビジネスモデルを考える際に重要な論点が浮かび上がるようにしたいと思います。
アメリカの強いプレーヤー、Apple・Amazonは垂直統合型ですが、日本はどういう方向が望ましいと思われますか?
美和:
アメリカの場合は、パワーを持っているプレーヤーがしかるべくしてやっています。日本は、紙の出版と出版流通で培ってきたバリューチェーンがベースで、それをどう進化さるかという発想です。自ずから進化の方向性が違って当然かと思います。
岸:
小城さんのところは、これから端末を広げていくということですから、ある意味で水平分業型を意識したものですね。それに対して、今野さんはバックエンドでいろんなことをやっていますが、ソニーなどは垂直統合っぽい感じがしますが。
今野:
ソニーという会社だけにフォーカスすると、アメリカでは垂直統合型をやっています。今回ブックリスタを作ったのは、日本の中ではいろんな方の力を借りて新しいモデルを作った方がいいということです。
AppleやAmazonは強力で、ワールドワイドに展開するので、日本だけというのは全く通じません。一見、一社が支配するのはすごいように感じますが、これは間違いです。
創造と循環のサイクルを維持するというのが一番大切です。お互いに競いながら、いろんなコンテンツがでてくる形が、日本にとって非常にいいと思います。
岸:
日本ではアメリカと違っていろんなプラットフォーム/ストアが乱立している状況を率直にどう思われますか。
高木:
これから大型書店が上陸してきますが、一ストアで対抗できるところは見あたらない状況です。来て儲からなかったら撤退して、地域経済をダメにする事があります。
AmazonもAppleも電子書籍はDRMをかけています。このステージはかけるべきだというのが分かって、その次まで考えています。日本の書店も、先はこうなるというストーリーを描いて先回りして行かないといけません。
岸:
ビジネスモデルを考える場合に電子書店とリアルの書店の共存が可能かという点で、日本型でいいリアルとの連携はどういったアイデアがありますか?
小城:
日本は本屋が多いので、より身近だというのがあると思います。本屋なりのサービスを考えています。リアルの書店は大変強い販促機能を持っているので、これがしぼんでしまうと全体としてマーケットがシュリンクするのではと危惧しています。
何とかリアルの書店とネット・電子書籍の共存を目指して行こうと思っています。
岸:
リアルの書店の販促機能は、すごく大事だと思っていまして、英語で言う「Serendipity(セレンディピティ)」で、まさに自分が知らなかったものに出会うというのは、すごい機能を果たしていると思います。リアルとネットの書店をハイブリッドでやる場合は、そういう機能はリアルの書店に集約するのか、ネット上でもそういう機能を考えるんでしょうか。
小城:
当然考えてます。我々はリアルの書店だからできるものを開発し、統計処理ではない、本の中身にも立ち入ったようなレコメンデーションロジックを作ってネット上に展開することも併せてやっていきたいと思います。
岸:
リアルの書店を持っていない中で、どういう戦略を考えてらっしゃるんでしょうか。
今野:
僕らはいろんなストアがあるのでそれを横断してのレコメンドを人力でやろうと思っています。
岸:
リアルの書店が機能していた、販売促進・セレンディビティ的な機能をうまくネット上で補完する新しいアプローチは出てきているのか。リアルに頼った方がいいのでしょうか。
高木:
Yahoo!に誰も勝てると思いませんでしたが、Googleが勝ったように、まだまだ転覆はあり得ます。日本人は得意な、日本的なソーシャルをやることができれば勝てると思います。
岸:
リプレースではなくて拡大という場合、具体的にどういう方向が可能性としてはあり得ますか?
小城:
書店は、お客さんを待つだけだったのでマーケティングがすごく苦手な業界です。リアル書店と結びつけることで、eCRMをきちんと導入しようと思っています。ネットとリアルの履歴を全部ふまえた形で、コミュニケーションを始めようと思っています。本屋らしいレコメンデーションを入れて、来店も促進して月に1.2回を1.7回にするような努力をしようと思っています。
紙と電子の使い分けなどのマーケティングデータもフィードバックし、新しい価値を生むような商品開発をして単価を上げる努力をしてみたい。
岸:
ソーシャルやマイクロコンテンツ等いろんな方向があると思いますが。
今野:
電子ならではの話をしなければならない。例えば、アメリカで多いブッククラブのようなものは、電子書籍に向くと思います。知的な、何か勉強したい、何かを教えてくれるというのに電子書籍は合うと思います。
他のもの・業界とのコラボレーションなど、いくらでもアイデアはあると思います。
岸:
マイクロコンテンツが売れないだろうというのは?
高木:
日経新聞さんは、クリッピングができたり、編集ができます。その権利にお金を払っています。バリューのあるものは払います。無料で途中までの断片的なものは、どんどんばらまきます。何かすごいものがあると食いつきます。そこから先の、きちんと編集した価値のあるものは買うという流れだと思います。
岸:
マイクロコンテンツは今後ある程度収益を取れると思われますか。
美和:
新聞・雑誌・書籍などそれぞれタイムライン・揮発性によって価値の定着具合が違うと思います。マイクロ化されたコンテンツは、プロモーティブに使い、最終的にはまとめて編集を加えたコンテンツとして見せる。このような、メタファーをプラットフォーム上にも実装できたらおもしろいと考えています。
背負っているタイムラインをうまく重ね合わせることによってプラットフォームのうまみが生きてくるという売り方もあると思います。
岸:
ソーシャルの方向は正しいと思いますが、ソーシャルで儲けに繋げるのは大変だと思うのですが。
美和:
私もそう思っています。
一つは、基本的にリアルとの連携、それからアフィリエート的なところにソーシャルをうまく実装する。ソーシャルで関心が喚起され、多くの人がにぎわいを感じ、共有していく、その文脈の中でストリームを増やしていくようなことを考えるべきでしょう。既にデジタルネイティブ達の間では、バリューチェーンとは違う売れ方があると思っています。
岸:
紙の本の置き換えではない、ボーンデジタルみたいな世界は、当然ありうるはずです。そういう市場はどの程度拡大していくと思われますか。
高木:
大きいと思います。
写真集『世界の"絆"グラフ』は、バラバラにあったものをまとめたら価値のあるものにできた、電子編集というのが一つキーワードです。
もう一つのキーワードは問題解決メディアです。書店になぜ行くかというと、だいたいは何か問題を解決したいからです。
岸:
ボーンデジタル的な世界になると、単に出版社が作ったもの以外に自分達でも作るという方向はありえますか。
小城:
まず、市場が立ち上がってくる時期においては、プロの作家さんの書籍が先だと思っています。長期的には、ボーンベースだとは思いますが、1~2年のスパンでは視野に入っていません。
今野:
全く同じだと思います。ユーザーの声とか、こんなのが売れるという話は、僕らは肌で持ちはじめています。それを、出版社と一緒にやる方が手っとり早い。餅は餅屋だと思います。マーケットを作る方に集中して、出版社の方とも濃くやるというのがポイントです。
高木:
出版社の持っている編集機能・編集パワーをどう取り込めるかというところが重要だろうと思います。
岸:
日本で電子書店がすごく数がありますが、もっと数が増えるのと、ある程度集約化されるのと、どちらがよりいいと思いますか?
美和:
個性が光っていれば、多くていいと思っています。
この辺のモデルが整うには、10年は掛かります。今は多様なものが競い合うという形が理想だと思います。
岸:
Appleが世界の音楽配信の市場を席巻し、結果値崩れを起こしています。レコチョクのような形で団結した方がプラットフォームとしては有りなのかなという気がしています。
今野:
その国にあったモデルを構築するまでは、協力して、先はお互いに競争するという、きれいごとのように思いますが重要なことです。特に、コンテンツを作る方々の創造のサイクルがどこかで断ち切られるようなことは絶対にしてはいけません。
岸:
市場が大きくなるだけでなく出版文化の発展を大切にしていきたい。まさに各社独自のビジネスモデルをうまく連携しながらという方向しかないのかなと、ぜひ関係者の皆様にもがんばっていただきたいと思います。