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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.003 記事1 【講演録】電流協セミナー

「電流協が考える電子出版の未来像」
1.「制作の視点から見た理想的なフォーマットとプラットフォーム」

講師
 コーディネーター 
 植村八潮 氏 東京電機大学出版局 局長 電流協 技術委員会 委員長

 パネラー
 井芹昌信氏 インプレスR&D代表取締役社長
 花田恵太郎氏 シャープ株式会社 通信システム事業本部 メディアタブレット事業推進センター コンテンツシステム開発室 室長
 松林繁樹氏 凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 デジタルコンテンツソリューションセンター 技術部 部長
 新堀英二氏 大日本印刷株式会社 情報コミュニケーション研究開発センター 出版メディア研究所 所長 主席研究員

5月18日(水)14:30-16:00
場所: 如水会館 2F スターホール

制作の視点から見た理想的なフォーマットとプラットフォーム

植村:
 テーマの枠組は、未来像というところです。
 コンテンツ側からみると、メディア特性の違い。EPUBとPDFの違いで、インターフェイスが違ってしまいます。もう一つは、デジタルファーストから紙に落とした結果、紙の読み手はどう変わったか。作り手側からすると、読者の声として紙を提供したことによる広がりの違いがあると思います。

井芹:
 リフロー型と、レイアウト固定型の文書フォーマットでは厳然とした違いがあります。従来は、まずターゲットの判型・大きさを決めて作られてきました。レイアウトを一旦やめるというのは最大の判断をした部分です。本の価値は、コンテンツとレイアウトから来る価値で、レイアウトを捨てて、新たな価値を獲得するトレードオフをやっています。
 現在、EPUBとPDFを出しているのは、まだPDFじゃないと読めないデバイスがあるためです。

植村:
 フラストレーションがたまるというか、押しどころが分からなくなってしまったんじゃないかと思いますが?

井芹:
 そうですね。
 iPadをプライマリーメディアと設定し、画面サイズと入る文字の量をiPadページと決めています。今回は、140iPadページという感じです。コンテンツのボリュームが作りにくいので、最初のデバイスをターゲットにし、スマートフォンに変えると250ページになるという捉え方をしています。

植村:
 従来の世界観である、紙の媒体を作りましたが、それはどうですか?

井芹:
 EPUBやリフローで読む読書体験・読書環境が日本では出来上がっていない、ハードルが高いことが分かったので、プロモーションも含めて、認識しやすく環境が整っている本で出してみました。

植村:
 私たちの読書習慣は、紙の読み方や「めくる」ということが意外に根強い。iPad2で速くなると、めくることは意味がなくなり、T-Timeでも「煩わしい」というユーザーの声で無くなりました。ボーンデジタルとして成功するときに、紙の本が好きな人たちの声が成功要素かは疑問です。
 端末のサイズ感や、リフローかPDFかで、デバイスの提供する読書感はどうでしょう。設計するときにどの辺を意識していますか。

花田:
 電子書籍の専用端末であれば、我々のコントロールの範囲です。しかし、携帯電話では、一つのアプリケーションぐらいの位置づけで、専用機のようなこだわりはできません。携帯の使い方の中で、出た要求にどう電子書籍をあわせるかになります。

植村:
 専用と汎用の世界観で、デバイスメーカーとしては両方を見ながらある落とし所を探っている感じですか?

花田:
 そうですね。
 文庫や小説・ビジネス誌・新聞を読みたい人もいます。全ての要求を満たそうと、フォーマットや閲覧モードもいろいろ用意してますが、これは読み手の混乱をきたしました。めくれる・めくれない、リフローができるできないなど、元がこうだと説明を必要とするのはよくありません。

植村:
 過渡期ということで、今はしょうがないという割り切りの中ですか。

井芹:
 まさに過渡期ということですが、あきらめてません。

植村:
 電子書籍の、1.0、2.0、3.0と行くときに、流れの中で、ソーシャルの次にナレッジに行くという流れは、汎用の中での実現と見えましたが?

新堀:
 マイクロコンテンツだけを見ると、汎用端末という方が向いていると思います。しかし、全てではなく、小説をじっくり読みたければ、汎用である必要も無く読書端末でいい。必ずしもリッチ化やソーシャル化されている必要はありません。

植村:
 移行ではなく、電子書籍1.0のマーケットも残りつつ、2.0・3.0が出ることで、もう一度1.0の市場がより大きくなって行くという捉え方ですね。
 ワンソース・マルチユースは難しいというときに、手間がかかるのと、読み方が拡散してより高いリテラシーが要求される流れに見えますが。

松林:
 レイアウトの前に、全ての素材を揃えると、素材が完全なので、それがワンソースになり、マルチユースになります。素材が一つ目のソースとすると、DTPは二つ目になります。出版プロセスでは、二つ目をいろいろ修正します。また、派生したデータ等もあり、実際にはワンソースになっていません。これが、一番現実的に難しい部分だと思っています。

井芹:
 ビジネスモデルの実証実験をしているので、iPadやスマートフォンで出す、プリントオンデマンド等、いろいろ作っています。物理的にできるワークフローを確立して、コストを見ています。人手も含めてどういうコストなのかが重要なポイントです。やれない理由は、コストが合わないからで、技術的問題はあまり無いはずです。
 ビューワーもデバイスも開発途上ですので、何をやってもリテラシーは要求されるというフェーズだと思います。

植村:
 電流協には、コストを落とすための何らかの共通化というテーマがあると思います。
 シャープさんが一貫して提供してきた経験の中から、どこは共通化して、どこで競争するとお考えですか。

花田:
 今までは、全部持っていないとビジネスが始められませんでした。
 デバイスの観点では、AndroidもiOSもアプリケーションに関してはある程度共通化し、技術面のハードルはかなり下がっています。
 作り手サイドとして、読み手との共通理解がまだない状況で、一緒に作っていくのか、どこかが引っ張っていくのか。リフロー時代における査読とはいったい何なのか、どこまで見るのかとか、そこのコストは膨大だと思います。

植村:
 ページ概念を手放したところから始まるというのがあって、各印刷会社さんも、シャープさんも作り手のわがままにつきあってきたと思います。この、位置関係が変わらざるを得ないのでは?

井芹:
 この半年ぐらいやってみて、これもできるあれもできる、企画すら思いついてしまいます。『世界の"絆"グラフ』という世界中の写真を集める企画も、やっていなかったら、思いつかないし、やろうとも思いません。全然違う世界観がそこにあるのを確信しました。

植村:
 電流協という場における共通化で、コストダウンできる要素はどういう点がありますか?

新堀:
 マルチデバイス・マルチフォーマット対応は、それだけコスト高の要因になります。
 出版文化を考えると、紙の表現まで、電子で求めない方がいいと思います。紙の表現の良さは、紙で追求する。電子書籍は、コストをかけないでざっくり読めるようなものを目指して、表現より中身の質が高いものがたくさんあるという状況を作るのが重要だと思います。

植村:
 紙の方がこうなのにという議論にエネルギーを掛けるのは終えた方がいいと思います。

松林:
 確認に、一番コストも時間も掛かっています。我々も、お客様も確認をするのがいいのか分かりませんが、確認をしなくてもいいような、フローをどう作ったら良いのか、印刷会社だけではなくお客様と作る必要があると思います。

植村:
 デジタル的にネットの中で出来ればいいと思っています。これもテーマかもしれません。

花田:
 従来の流れと新しい流れがあって、どちらかを選択するものでも無いと思います。
 新しい流れはどこを見て誰に聞いてやっていくのか。自分で考えるのも含めて、新しい取り組みをユーザーさんも巻き込んでやるとして、その間どうやって飯を食っていくのかが大きな悩みです。コンテンツを販売して代金をいただくという基本がどうも成立していない。当面は全方位で行きますが、全部やっていたら体もお金も持ちません。

井芹:
 ワンソースマルチユースは、言葉としては安易だと思っています。変換は簡単ではいけないと考えます。紙・iPad・Web等にするのがコンピュータで100%できてしまったら、皆さんの仕事は無くなるでしょう。紙にしたり、ディスプレイサイズを変えるのは大変で、ぞれぞれに合わせた表現が必要で、これはコンテンツそのものにも及びます。
 一度レイアウトを捨てたのは、デジタルファーストで捨てたのであって、実際に本を作っているのは、デジタルファーストプロセスから本というパッケージを手作業も含めて生み出しています。コストが安くなったときに、相対の市場が大きくなるのか、書店ではないところで本をどう売るかということを本気で考えるために、ワンソースマルチユースがあると思っています。

植村:
 売る場を広げる、売る要素を広げるという両方が実現したときに、理想的な電子書籍コンテンツができていくということです。
 もう一つは、ワークフローも整備できていません。この次に電流協でやらせていただこうと思っている、経産省のプロジェクトの中では、ガイドラインを作ろうとしています。これが明確にないと共通化はできません。誰が来てどういう組み合わせでもいいという、コンテンツをより効果的に利用できる環境が必要で、ガイドラインは理想に近づける第一歩と考えています。

【本文終了】