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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.002 記事2 【講演録】技術委員会セミナー

「通信と放送の融合がもたらす電子出版の新たな配信モデル」

講師
 AMIOフォーラム事務局
 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科
  高橋竜之介 氏

 株式会社ネクストウェーブ
  代表取締役社長 尾崎常道 氏
  取締役 石川勝一郎 氏
  ディレクター 安室おり絵 氏

2月25日(金)14:00-15:30
場所: 日本教育会館 7F 中会議室(701・702)

通信と放送の融合がもたらす電子出版の新たな配信モデル

高橋
●AMIOとは
 電子配信・電子流通をする中で、通信では数十~数百万部を伝えるのは難しい。そこで、デジタル放送波を活用して雑誌・新聞のコンテンツ流通を検討するのがAMIOのコンセプトです。
 参加企業は、新聞・出版・放送・メーカーなど16社。2009年11月に第一期を立ち上げ、実証実験を実施。現在、二期目を迎えて、サービスモデルの検討・ビジネスモデルの議論を行っています。

●通信を活用したサービス
 昨年の12月に行われた宇多田ヒカルさんのUstream中継がユニーク視聴者数 34万人、最大同時接続数 10万人。昨年末の紅白は、平均視聴率として第一部 35%・第二部 41%で、5,000万世帯の30~50%です。通信では同時視聴者数が100万人を超えると厳しいと思います。
 ビューンというサービスの例では、6月1日 iPad向けサービスを開始したところ、アクセス殺到によりサービス停止。6月29日に再開したものの3G版は未だに利用できません。
 放送は、同時に数百万人レベルのユーザーが見込めるものに適しています。得意なシーンを活かす一つのソリューションとしてネクストウェーブの「.CAST」が考えられます。

 

尾崎
●「.CAST(仮称)」コンテンツコンテナが実現する再利用しやすいマルチメディア出版の世界
 電子出版の課題として、素材がマルチメディアであることと、デバイスの多様化があります。流通デバイス・スマートフォン・書籍端末・サイネージ端末・フォトフレームなど、受信環境や表示能力が全く異なります。
 放送は片方向であるため受信デバイスの能力や状況に関係なく送り、表示しなければなりません。これを克服するのが、「コンテナ方式」という考え方です。

●「.CAST」方式
 レイアウトにこだわると、放送で送ることや、デバイスごとの表現能力に対応できません。TwitterやRSS等のようにレイアウトを持たずに情報を構造化するという考え方を採用し、情報をツリー構造化して、表示はデバイス側に任せます。
「.CAST」は共存を前提としたコンテナ方式で、EPUBを送ることも可能です。棲み分けとしては、電子書籍端末だけではなくサイネージやフォトフレームなどのいろんなデバイスに考え方を広げて、安定した表示を可能にするものです。

 

石川
●「.CAST」とは
 誌面にレイアウトされたものを、意味上の階層構造に分解してツリー構造にします。これを素材とひも付けします。構造情報・表示制御用メタデータ・表示素材に分けます。
 構造情報は、構造のみで「章」「節」「項」や段落に当たる部分だけを持っている「node」です。
 表示素材は、実際に表示する画像・動画などで、テキストも素材の一つとして分離し外部に保管します。
 メタデータは、構造情報と表示素材を結び付けるもので、ノードごとにタイトル・本文・キャプション等の役割を指定します。このメタデータが無くても、最低限の構造情報と表示素材があれば情報伝達が可能で、メタデータを使うと、よりリッチな表示ができるという二段階構造にしています。ムービーしか再生できないプレーヤーでは動画のみ、パッド型端末なら全てを使ってマルチメディア雑誌ということが可能です。
 再利用もしやすく、他のフォーマットへの作り直しも簡単です。「.CAST」から、ウェブや、電子ペーパー・電子マガジンも容易にできます。
 制作コストでは、アプリ・HTMLとスクリプトで作る場合と比較して、一桁少ないオーサリング工数・約1/10の費用で実際に作ることができています。

●「.CAST」の適応分野
 新聞や雑誌など賞味期限は短いが、大量・短期間に配信する必要があるもの。ニュース映像の裏で記事データを配信したり、英会話番組でテキストを届ける。デジタルサイネージ機器から、ポスターやフリーペーパーをユーザーの端末へコピーするといったサービス。今作られているウェブサイトのコンテンツを再利用して、新たな価値を作るものとして、ブログ記事が出版されている例や、ソーシャルパブリッシングなども考えられます。

●「.CAST」の表示例
 サンプルとして、誌面モード・オーバーレイモード・スライドモード用のアプリケーションを作っています。これらの表示が、一本のツリー構造から手を加えることなく取り出せます。
 覚えるタグも、枝の「node」と、葉の表示素材を指定する「entity」との二つだけです。これに「role」で、Title・Body・Copyrightなどの役割を指定します。情報の構造を記述するだけなのでテキストエディタでも書けるほど簡単で、1日程度の講習で作れるようになります。

●InDesignからの変換
 レイアウトされているものでも、構造を付けるウインドウから、一つ一つに構造として階層をつけます。「.CAST」の役割「role」をInDesignのタグとして登録してアサインしていきます。これをXML書き出し機能で出力したものを、ほぼ自動で「.CAST」に変換できます。タグ付け作業と変換作業・調整と、10分ほどで1ページを「.CAST」にすることができます。

●「.CAST」のまとめ
「.CAST」は、普遍的なコンテンツの構造を持ったパッケージングコンテナとしてまとまってきました。
 今後は、サイネージ向け、雑誌・新聞向けの拡張・番組のタイムコードとの連動、広告の期間設定、画像・ムービー・テキスト単位でのDRMなども進めています。

 

高橋
●「新たなビジネスの可能性」
 地デジへの移行によってできる空き周波数は、他の用途に利用できます。全体としての割当はありますが、各地域ごとに隙き間の未使用部分「ホワイトスペース」があります。
 マルチメディア放送は、携帯端末での受信を想定した放送で、全国向けのV-Highと、地方ブロック・県域向けのV-Lowとの二種類があります。

・V-High
 テレビ放送的なサービスと、データ配信サービスとで、帯域を自由に変えられます。時間で、それぞれに割り当てる帯域を変更することも可能です。
 市場規模は、株式会社マルチメディア放送が2016年度末までに5,000万台の端末出荷を見込んでおり、有料利用意向 14%と想定利用月額 300円/月から試算し、252億円/年という想定をしています。
 現状の携帯向けの電子書籍市場が500億円で、この半分を奪ってしまうのか、上乗せになるのかは微妙ですが、この程度の規模になると考えています。

・V-Low
 V-Lowでは、車載ナビなど車の情報化や、地域新聞や地域情報誌・デジタルラジオなどが想定されます。参入意向事業者の調査では、FM・AM・短波ラジオの事業者、コミュニティ放送等が多く、新聞社は少ない状況です。
 まだ、枠組みなどが細かく決まっておらず、2013年秋以降のサービス開始を目指して動いています。

・ホワイトスペース
 具体的なサービスとしては、商店街でのチラシやクーポンの配信、スタジアム限定コンテンツの配信などが考えられます。
 地デジ電波の通信的利用として、広島県福山市でアスコンや、中国新聞社・中国放送・福山大学が協力して、放送波で電子チラシや新聞の紙面を送る実験を行っています。

●ビジネスとしての課題
 サービスプラットフォームでは、端末やフォーマットの形がユーザーに使いやすいこと。また、提供側が利用したいと思う形でないと、コンテンツの充実が図られないため普及は進まないと思います。
 制度面では、現状の放送法にある放送規律が障害となる可能性があり、制度を緩和することが必要だと考えています。
 3.9GのLTEや4Gに対して、通信で全てまかなうことは難しい点や、ベストミックスの形など放送型の優位性を訴求する必要があります。

●まとめ
 AMIOフォーラムは、放送型によるコンテンツ流通の普及に協力・応援をしていきたいと思っています。通信と放送が上手くバランスを取った形での、電子書籍・電子雑誌・電子新聞などの流通が盛り上がればと思います。

【本文終了】