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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.002 記事1 【講演録】技術委員会セミナー

【会員限定】技術委員会セミナー
「電子書籍リーダー端末の技術的動向とモバイルブロードバンドサービスの展望」

講師
 流通委員会副委員長 インテル株式会社 シニアストラテジスト
 草場匡宏 氏

1月31日(月)14:00-15:30
場所: 日本教育会館 7F 中会議室(701・702)

電子書籍リーダー端末の技術的動向とモバイルブロードバンドサービスの展望

 
 
●電子書籍端末の市場動向
 電子書籍端末の今後の動向、モバイルサービスの動向、出版コンテンツがどのように関わっていくのかについて私なりの見解をまとめて説明したいと思います。

 従来の電子書籍端末は、読書専用で、5~11インチで軽くて薄く、白黒の電子インクが主体です。しかし、近年ではCESでも紹介されたように、カラー表示デバイスを使った電子書籍端末もでてきています。 汎用端末は、4~11インチ程度で、アプリケーションを変えることによって、ビューアーや様々なサービスに対応できます。これには、スマートフォンや、PSP・電子辞書・PDA・タブレットなどがあります。 汎用タブレットは、iPadの9.7インチから、DELL Streakの5インチなどです。スマートフォンは、携帯することが中心で、パフォーマンスが良く、小さいながらもコンテンツとしての電子書籍にも対応できます。
普及台数は、世界的に見て専用リーダーは1,000万台ぐらい、国内は約80万台ぐらいと言われています。汎用タブレットは、iPadで急速に立ち上がりましたが、今のところ国内142万台ぐらいです。スマートフォンは世界でも3億台を超えており、国内でも500万台と見過ごすことはできない重要なデバイスです。

●電子書籍の構成要素
 組み込みデバイスとして考えた場合、システムモジュール・インターフェース・外部モジュールがあります。中でも、表示デバイスというところが非常に大きなポジションを占めています。
 表示デバイスは、専用機の白黒電子ペーパーと、汎用機は電子ペーパーと液晶パネルになります。
 電子ペーパーは、モノクロ・応答速度が遅い・リフレッシュ時は一度全体が黒くなる特性があります。コストは高めですが、消費電力が非常に低く軽いので紙に近いデバイスとしては優れています。
 液晶パネルは、テレビやカーナビなどのあらゆるところに使われており、7インチクラスで$20程度です。コスト的に考えると、LCDやELパネルの選択もあり得ます。
 電子ペーパーにも様々な方式があります。最も使われているのが、マイクロカプセルに黒と白の粒を入れ電圧をかけてスイッチさせる「E-ink」です。他には、マイクロカプセルよりも安価に製造可能で、青と赤など二種類の組み合わせで疑似的なカラー化できる「SiPIX」や、応答が比較的速く、フレキシブルにできるブリヂストン「QR-LPD」などがあります。
 カラー化では、小電力な富士通の「コレステリック液晶」や、モノクロとカラーTFT両方の機能を持たせたPixel Qiの「3Qi」ディスプレイ、色を変えた部分しか電力を消費せず応答が速いQualcommの「mirasol iMOD」ディスプレイ等があります
 表示方式とコンテンツの相性では、カラー端末が普及すれば雑誌やコミック・教科書などに用途が広がります。
 タッチデバイスは、抵抗膜方式・電磁誘導方式・静電容量方式があります。抵抗膜方式は、タッチの圧力で電気抵抗が変化するのを検知し、FAやPOS・一部のPDA・カーナビなどに使われています。電磁誘導方式は、ペンが近づくことでおこる磁場の変化を検知します。精密なポインティングと、圧力を計ることが可能で、ワコムなどのペンタブレットなどに使われています。静電容量方式は、スマートフォンや携帯プレーヤーでデファクトになっています。触れることで電気がたまるのを検知し、複数の場所にタッチするマルチポイントが可能です。コスト面では、抵抗膜が非常に安いのに対して、静電容量は若干高めですが当面は主流になると思います。

 端末コストでは、Kindle2が合計で$185見当で、$60 32%がE-inkディスプレイ、次いで3GとWi-Fiが高く、プロセッサは$8と安く抑えられています。白黒のリーダーは、E-inkと通信モジュールに価格の大半が占められており、他のコンポーネントは非常に安く抑えられています。中国のHanvon(漢王)というメーカーのものが$99程度で出るようですが、E-inkの部分を変えないとこれ以上安くするのは難しいでしょう。
 iPadは、$300くらいで作られています。見た目の美しさにこだわり、IPS液晶・パネル・アルミのきょう体にコストをかけています。プロセッサは、$20程度です。他の部分は、iPhoneと共通化して低消費電力化や低コスト化し、量産効果でもコストを抑えています。
 汎用タブレットは、$200~$300で製造し、$500程度で売るというのが一般的なパターンです。

 

●タブレット端末の市場予測
 IDCの統計で、2010年は155万台です。今後、メディアタブレットは広がり、モバイルデバイスは2010年に1,900万台、スマートフォンを合わせると2014年に4,000万台ぐらいになるでしょう。タブレットも、142万台になるという予測があります。iSupply社の分析では、2010年でiPad 700万台、Kindle 800万台と同程度で、今年は倍増すると考えていいと思います。

 CES2011で展示されたタブレット型端末動向では、大きさは、52%が10インチクラス、7~8インチが35%です。プラットフォームは、7割近くがAndroidで、最新のAndroid 3.0 (Honeycomb)搭載が3割弱、現行の2.1~2.2搭載端末が4割程度です。Windows7搭載機は、出て間もないため24%でした。
 文字入力を改善するため、キーボードがドッキングできるものや、画面をスライドするとキーボードが現れるものなどが様々なメーカーから提案されています。
 NECでは、静電容量と電磁誘導の両方に対応した2画面のタブレットを展示していしました。これは画面へのコメント書き込み可能で、電子教科書などにもいい方法だと思います。
 端末の見通しとしては、モノクロ専用と汎用タブレットに二分化しています。

●モバイルネットワークのトレンド
 P2Pは減少しましたがトラフィック全体は依然として増加しています。2015年には、2010年に比べて15倍ほどトラフィックが増え、特にストリーミングや映像配信がモバイルトラフィックを押し上げると予測されています。そのため、各携帯キャリアも通信速度向上を考えています。ドコモは、3.9Gの「LTE」(クロッシー)を2010年末から開始しました。WiMAXも次世代のWiMAX2では下り最大330Mの第四世代「802.16m」の導入を予定してます。
 通信量が増えても定額制では収入が追いつきません。最近では、AT&TがiPhoneのパケット定額をあきらめました。このままでは同様のことが起こる可能性もありますので、その前に第四世代へ移行してほしいと願っています。

●電子書籍の市場の展望
 モバイルビジネス市場は、この5年でコンテンツもコンシューマー市場も増加しており、今年もその傾向は変わらないでしょう。電子書籍は、2009年が500億、2010年で500数十億程度で、その先はケータイコミック以外のジャンルを増やさないと延びが止まるという懸念があります。
 電子書籍の売れ行きは、リアルなコンテンツの流通量によります。書籍8900億円、雑誌(月刊・週刊)1兆2000億程度です。量的に、コミックと雑誌を加えないと母数としての出版市場は少ない状況です。これには、カラー専用リーダーや汎用端末を活用していく方が利口なのではないでしょうか。
 端末だけではなく、パソコンのソフトウエアも重要です。iTunesのように、PCと同期して整理や追加が容易になるようにメーカーにももっと力を入れてほしいと思います。
 国内の電子書籍サービスは、キャリア系・リアル書店系・制作流通系などに分かれています。しかし、グローバルプレーヤーに対抗するためには、相互に跨げるような仕組みを作る必要があります。
 モバイルサービス市場と電子書籍市場とを考えると、コマースで一兆円近く、コンテンツ 5600億円、モバイル広告 1000億円程度と小さいものです。これらの三つが、電子書籍端末で連動して、初めて自律的な市場ができあがってくると思います。

●まとめ
 電子書籍はモバイルサービスとの連携が必須です。電子書籍端末が高性能化し、新しい表現ができるようになりますので、それを使うようなフォーマットと配信の仕組みを作る必要があります。各通信事業者も出版界と連携して市場を広げようとしています。そのためにも、フォーマットやDRMの共通化は重要だと思います。
 それが実現したときに電子書籍はデジタルコンテンツ市場を推進する新たなマーケットなるでしょう。

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