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News Letter Vol.001 記事3 【講演録】技術委員会 セミナー
「電子出版の技術、環境について」
講師
株式会社インプレスR&Dインターネットメディア総合研究所客員研究員
株式会社 クリエイシオン
代表取締役 高木 利弘
12月1日(水)14:00-15:30
場所: 九段会館 鳳凰の間
「電子出版の技術、環境について」
●マスメディア対インターネットメディア
マスメディアとインターネットメディアの力関係が逆転しようとしています。
出版市場は1996年をピークに2009年には27%縮小し、書店も2000年から2009年にかけて29%減少しています。
広告費は、マスコミ四媒体のうちラジオ・雑誌・新聞がすでにインターネットに抜かれており、テレビが抜かれるのも時間の問題です。2020年には、視聴時間数でテレビがインターネットの動画配信サービスに抜かれるとの予測もあります。
電子書籍市場は、2002年度年の10億円から2009年度の574億円へと大きく伸びました。2004年度からケータイ向け市場が伸びる一方、PC向けは2007年度を境に減少に転じています。
ケータイではコミックだけが突出して伸びており、文芸系や写真集はさほど伸びていません。理由は、コミックがケータイの小さい画面に適応できたのに対し、文芸系や写真集が適応できなかったためと考えられます。ボーイズラブ、ティーンズラブ等の売り上げが大きく、女性が中心です。
取り次ぎシステムの整備も大きかったと考えられます。ビットウエイ(凸版印刷系)、モバイルブック・ジェーピー(大日本印刷系)が、コンテンツを自社サーバで一元管理する取り次ぎシステムを整備したことで、店舗数が一気に増えました。
ケータイには画面サイズの問題、PCには重さや起動時間の問題があったわけですが、iPhone等のスマートフォンや、iPad等のタブレット端末が登場してきたことで、それらの問題は解決され、電子書籍の本格的な普及期が始まろうとしています。
●プレーヤーの種類
アップルは、iPhone・iPod touch・iPad等のデバイスを発売し、AppStore、iBookstoreといったストアを展開しています。
アマゾンは、Kindleというデバイスを発売し、Kindle Storeを展開しています。Kindleは、通信料無料で電子書籍を購入できるようにして成功しました。また、読書情報を共有できるソーシャルリーディングを目指しています。圧倒的な品揃え、価格の安さ、マルチデバイス対応といった戦略が功を奏し、2010年7月以降、電子書籍が紙の書籍の販売冊数を上回るようになりました。
グーグルは、Android OSをスマートフォンやタブレット端末に無償提供するオープン戦略により搭載端末を増やしています。まもなく、Google Editionsというストアをオープンする予定です(注:2010年12月6日にGoogle eBookstoreという名称でオープンした)。
その他のプレーヤーでは、シャープとソニーが独自な展開をしています。
シャープは、GALAPAGOSというカラー液晶を搭載した読書専用端末を発売し、カルチュア・コンビニエンス・クラブと共同でTSUTAYA GALAPAGOSというストアを始めます。
ソニーは、日本でもSony Readerという電子ペーパーを搭載した読書専用端末を発売し、Reader Storeというストアを始めます。ソニーと凸版印刷・KDDI・朝日新聞社が共同で設立した「ブックリスタ」がコンテンツ提供を行います。
●ビューア/ファイルフォーマット
「XMDF」は、シャープが開発。「ブンコビューア」というビューアで閲覧します。XMLベースで、日本語表示に対応し、画面サイズやフォントサイズに応じて最適表示するリフロー型です。音声・動画等のマルチメディアにも対応し、IEC標準規格となっています。
「.Book」は、ボイジャーが開発したもので「T-Time」で閲覧します。XHMLベースで、リフロー型です。日本語表示に優れ、音声読み上げにも対応しています。
「モリサワMCBook」は、モリサワが開発したビューア/ファイルフォーマットです。InDesignの組み版データからiPhone・iPad・Android端末向けの電子書籍アプリを作成可能です。
「DReader」は、ダイヤモンド社が開発したビューア/ファイルフォーマットです。電子書籍化のメニューには、松・竹・梅のコースがあります。
「AZW」は、アマゾンKindleのフォーマットです。リフロー型で、PDFやEPUBから簡単に変換できます。最近は、よりDRMを強化した「TPZ」の採用を進めています。
「EPUB」は、IDPFが策定したオープンな電子書籍ファイルフォーマット規格です。XHTMLベースのリフロー型で、CSS2・SVG1.1をサポートしています。2011年5月リリース予定のEPUB 3.0では、動画や音声などのマルチメディア対応、日本語仕様への対応も予定されています。
●4.アップルに何を学ぶか?
現在、私たちが電子書籍と言っているものは、本をそのまま置き換えた「スタティック(静的)な本」が多いと思います。
アップルのMacintoshからiPadに至るルーツはアラン・ケイの「Dynabook=ダイナミック(動的な)本」です。今後、アップルは「電子書籍+電子ノート」の「ダイナミック(動的な)本」を指向していくと考えられます。
また、著作権保護を優先し、読者の利便性を軽視する傾向があると思います。アップルは、購入したらどの端末でも閲覧でき、販売者はどこでコンテンツを閲覧したかを追跡できる仕組みを提案しています。まずはコンテンツを数多く流通させて、そこからどう利益を得るか、その仕組みを開発するという発想でやるべきではないかと考えます。
●5.電子書籍の課題
電子書籍になると印税率は上がると言われていますが、紙の書籍のような初版部数に応じた印税報酬は得られなくなります。
リアルの書店では、書店の中を歩いているうちに新しい本と出会える機会がありますが、電子書店にはそれがほとんどありません。トップページやランキング上位にある本は売れますが、それ以外はほとんど売れなくなります。
小さな出版社にはロングテールのメリットがありますが、全般的にいって、電子書籍市場は売れる保証がないギャンブル性の高い市場と言えます。電子書店が発達してくると、極論すれば出版社には編集部だけあればいいという状況になりかねません。
●6. 今、書店に起きているのは“情報ビッグバン”
「書籍の電子化」は必然的に起きていますが、それが全て「電子書籍」になるわけではありません。クラウド・サービス、ソリューションへと発展していくものもあります。
これから電子書籍の世界で桁違いの価格破壊が起き、出版社は二極分化していくと考えられます。中小出版社は、より小さくなることで適応できる可能性がありますが、大手出版社は情報産業のリーディングカンパニーに変貌しなければ、生き残るのは難しいでしょう。それには、出版インフラを印刷会社・通信キャリア・ITベンチャーなど資金力・技術力のあるパートナーと出版社が一緒に構築していく道を選択することだと思います。
●7.情報革命の先にある“未来社会”
人類の歴史を「情報技術の発達史」という観点から振り返ってみると、「情報技術」は必ず「断片的なもの」・「連続的なもの」・「ランダムアクセス可能なもの」「総合的にランダムアクセス可能なもの」へと発展する法則があることがわかります。
「電子書籍」は「クラウド」に格納されることによって、「総合的にランダムアクセス可能なもの」に発展していくはずです。これを誰がどう開発するかの競争が始まっています。
現在のWebページは、まだ構造化されたランダムアクセス可能なものになっていません。これをやろうとしているのがEPUB、HTML5です。
「電子書籍ブーム」の背景にあるのは、こうしたダイナミックな「情報技術の飛躍」です。インターネットのWeb技術に、情報技術としての「書籍」ノウハウが移ろうとしています。まず、「書籍の電子化」、次に、クラウドにおいて、その膨大な「電子書籍」をどう整理して、どうランダムアクセス可能にするかが重要になってきます。
そういったチャレンジを、電子出版・制作流通協議会が率先してやっていただけたらと思います。