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News Letter Vol.001 記事2 【講演録】運営委員会セミナー
「出版者への権利付与の要望について」
講師
社団法人 日本書籍出版協会
事務局長 樋口 清一 氏
11月30日(火)14:00-15:30
場所: 九段会館 鳳凰の間
「出版者への権利付与の要望について」
●出版物利用の多様化
出版物は、本来無形の著作物を形のあるものとして固定化したものです。これにより、固定・保存・運搬・頒布・商品化が可能になりました。商品化であれば、タダでは見せない・読ませない状況を担保する必要があります。そこでできたルールが著作権法です。
複製手段が大衆化したことで、一旦パッケージ化された著作物が、本来の無体的なものに還元され、従来のシステムではカバーできない利用形態が生まれました。
●「出版者の権利」要望の経緯
現行著作権法の審議をした著作権制度審議会に、書協は1962年4月から1969年9月までの間に17回の意見書を提出しています。
出版権は、著作権の一部で出版という形で複製をする権利です。著作者のこの権利を契約によって、一定の期間出版者に設定をすることができます。これによって、出版者は独占的・排他的に出版が可能になります。しかし、出版権は、文書・図画による複製ですので、電子出版には適用されません。
書協では、これまで版の保護の規定新設の要望や、複写問題・集中的権利処理機構の検討等を行ってきました。昭和60年からの著作権審議会第八小委員会で出版者への権利付与が検討されました。伝達者としての行為を評価するという根拠付けで、最終的にできあがった出版物の版面の利用に関して権利を認め、権利を与えるべきだとの結論がでました。しかし、経団連等の強い反対のために法制化されないまま、現在に至っています。
集中処理機構の検討は、第八小委員会の検討と時を同じくして進んできました。日本工学会等の学協会、文芸、脚本、写真、美術等の著作者団体などが参加をして、現在の日本複写権センターへ繋がっています。
●海外における出版者の権利
出版者の権利に一番近いのはイギリスでの版面権です。印刷された版の版面構成を著作物として保護しています。存続期間は、25年と短い期間が設定されています。
また、ドイツの法律では、第70条の学術的版の保護で著作権の保護を受けないもの、著作権切れのものなどでも学術的な成果を示し、今までに作られたものと実質的に区別されるとき、刊行物の作成者に学術的版の権利が帰属するというもので期間は25年間です。第71条遺作著作物は、未発行の著作物を著作権消滅後、最初に発行した場合、出版者が保護を受ける規定です。
フランスは、出版者の権利ではなく出版契約の内容について著作権法の中に定めをしています。
アジアでは、台湾の第79条製版者の権利があります。ドイツの権利に近いものの学術的な版に限定されずに広い範囲で製版者の権利を認めており、期間は版面の完成から10年間です。
中国にも、第35条 出版者は、その出版した書籍または定期刊行物の版面の他人による使用を許諾、または禁止する権利を有するというものがあり10年間の期間が設定されています。
世界的にもこのくらいで、欧州では著作者と出版者が共同で行使をするという考えから、あえて出版者に権利を認める必要性がなかったと思います。
●デジタル化への動向
本年6月、三省デジタル懇談会の報告がでました。今回の視点は出版物の電子化やそれを利活用する中で出版者にインセンティブを与えることによって、電子化、あるいは著作物の流通が進んでいくという主張が出版界から出されました。
文化庁では、「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」の中で図書館のあり方・権利処理の円滑化とならび、出版者への権利付与に関する事項が検討されることになっています。出版者の権利問題は、来年の春から夏になると思います。
その間に文化庁から、国内の出版物の利用実態調査と、海外における権利処理の実態調査とを出版界として依頼されています。文化庁は、独自に法制面の調査を行う予定です。
利用実態よりは、違法な利用実態で、従来からある違法コピー・違法なスキャン・違法配信などで、利用者の意識調査・出版者・著作者の方にも聞き取り調査等も行い、推定にせよ数字を示したいと思っています。
●「出版者の権利」の今日的必要性
文化政策上としては、多様な出版物が世の中にでる環境を維持することが重要だと思います。国内商業出版者の半数は従業員10名以下と小規模ですが、こうした会社でも発行継続が可能な状況が必要です。出版者が正当な対価を得るためには、権利が必要でしょう。
産業政策上の観点としては、中小零細の保護は当然必要です。三省デジタル懇談会の報告書にも冒頭にありますが、知の拡大再生産のサイクルを回していくため、出版者のインセンティブを確保することが必要だと考えています。違法コピー問題以上に、デジタル時代には出版者の権利が必要だと思います。
●出版者の権利を考えるための論点
著作物が、無体物に還元された場合、出版者の付加価値がどこに行くのかという問題があります。著作物のまま著者が配信できれば、出版者不要との意見もありますが、出版者が出版物を作るときに生じる付加価値のないものが、商品になるかを考える必要があります。
著作物の価値は、1次的利用もn次的利用も同一で、漸減しません。また、新たな利用手段・市場ができた場合、適正な利益配分を担保するため、どのような権利が必要なのかが考えられないといけません。
集中管理の問題は、一任型権利委託の場合、誰にでも条件を満たせば許諾しなければならないという応諾義務が著作権等管理事業法に定められています。独占的にAに許諾し、Bにしないということができませんが、出版を誰にでも許諾しては、出版ビジネスが成り立ちません。コピーは誰にでも許諾をしてかまいませんが、出版行為そのものは一任型になじまないビジネスです。
非一任型があれば管理事業法の枠外で、権利者が自由に価格を設定でき、許諾の選択が可能です。しかし、非常に手間がかかるのと、一任型と非一任型が一つの規定に混在しているのは好ましくないという意見もあります。
権利処理をどうするかですが、著作権センターに権利を預けて得られるお金ではコピーによって被る損失を全額補填することはできません。私的録音録画補償金制度もごく一部を補っているだけです。欧州等の図書館の公共貸与権も同様でしょう。世界的にみると、フランスなどは一種の税金として徴収をして法定許諾に近い形です。もっと進んで、損失補填ではない考え方のひとつとして、コピーを売るという形で集中管理される可能性もあります。アメリカのCCCという団体は、出版物ごとに異なる料金設定をしています。
出版契約では、パブリックドメイン・著作物でないもの・著作権者の所在不明などは契約できないため、出版者の権利が必要になります。
契約期間については、通常3~5年の期間を設定して、後は自動更新となります。オンデマンド出版の準備をし、注文に応じられる状態なら継続出版の義務を果たしていると考えられ、出版契約はその期間は続くと考えることも理論的には可能です。
80条3項の規定で、出版権の設定契約をした場合、出版者は第三者に許諾をすることができません。実際には親本の出版者が、文庫本の出版者に対して、許諾・2次出版の使用料をもらうという慣行があります。電子出版の時代になると、付随する様々な権利を持ってビジネスをする可能性があります。このようなときに、第三者への許諾権を契約の中で認めるかどうかが今後の問題になってきます。
出版者の権利で何を要望するかは、実際固まっていません。文化庁の検討会議には、出版界として、権利についての具体的・詳細な提案をし、たたき台にしてもらう必要があります。今後、いろいろ協力をお願いしたり、話し合いをしたりしていく必要もあると思いますので、そのときは是非ご理解をいただければと思います。