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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.001 記事1 【講演録】図書館総合展 フォーラム

『電子出版の“今”を語る
~電子出版を取り巻く環境と協議会の活動~』

 

会場 パシフィコ横浜 第一フォーラム会場
図書館総合展 2010年11月24日(水)15:30-17:00

コーディネーター
 高野明彦(国立情報学研究所教授)

パネリスト
 植村八潮(技術委員会委員長 東京電機大学出版局 局長)
 岸博幸 (流通委員会委員長 慶応義塾大学大学院教授)
 草場匡宏(流通委員会副委員長 インテル株式会社 シニアストラテジスト)

パネルディスカッション

岸委員長
 電子書籍ビジネスを考えた場合、ネットビジネスの側面と出版ビジネスの進化形という二つの側面をバランスよく考えないといけません。
 プラットフォームレイヤー企業(Google・Apple・Amazon)がコンテンツの流通全体を牛耳り、正当な対価を払わずに搾取しています。この状況が世界的に文化やジャーナリズムの衰退をもたらせています。コンテンツの流通独占がネット企業側に移りましたが、ネットではジャーナリズムや文化が拡大再生産できるシステムになっていません。出版産業でもしばらくは悪影響が起きる可能性があります。書籍が担ってきた出版文化が、電子書籍にシフトする中でどのように維持されるかが重要です。
 オープンから垂直統合での囲い込みという大きなパラダイムシフトが起きています。プラットフォームレイヤーが端末と融合し、より一層強固なものになっています。
 この垂直統合システムが日本にも参入しようとしていますが、このモデルを受け入れるだけでは無理で、日本の出版文化維持を真剣に考えなければなりません。これは、民間だけでなく政府が問題点を認識し、市場拡大政策を目指す必要がありますが、現状の政策対応は正しくありません。コンテンツそのものの強化より、コンテンツの流通促進に偏っています。著作権に関してもネット時代に対応したものになっていません。

植村委員長
 電流協の活動についてですが。流通委員会の目的は、電子出版物のメタデータに関する調査・研究・提言 と電子出版物の日本型ビジネスモデルの調査・研究です。技術委員会の目的は、電子出版データのフォーマットに関する調査・研究・提言とデバイスの規格・機能の調査・研究です。
 日本型のビジネスモデルにより、参入障壁が低く、活発な出版活動が行えてきました。電子出版の方が資金がなくても参入できるという側面もあるので、コンテンツを作り続けるだけでビジネスが成立するような仕組みが作れれば理想的です。日本の携帯コミックでは日本型水平分業がうまく成立しています。
 電子書籍市場を拡げていく上で、技術面と流通面との課題が存在します。中間(交換)フォーマット、コンテンツID、書誌情報、アクセシビリティなどです。また、正当な対価で売られていく仕組みをどう作るかも問題です。

草場副委員長
 日本は、雑誌、マンガ、動画、Webなど、さまざまなコンテンツを表現できること、日本の生活や通勤事情にあったような端末が求められます。画面サイズは、4インチ程度では読みづらいので、7インチ程度の普及が考えられます。
 大きさ、重さ、ネット活用の仕方、またアプリの開発環境、ビジネスモデル、通信環境などの整備も必要です。DRMも日本の独自方式から世界的な標準規格に合わせることも重要です。

高野教授
 新しいメディアが生まれて、一部は無くなり、再編が起こります。その時に文化が衰退しています。CDの売上が下がっているからというは、文化、社会の活性度の計り方という点でミスリーディングと言えないですか。

岸委員長
 CDの問題は事例で、ポイントはコンテンツの拡大再生産を続けられるエコシステムができているかです。新聞・TV等あらゆるコンテンツのクオリティが低下しているのは明らかです。早く新しいネットのビジネスモデルを確立して、正当な対価でコンテンツが売買される状況にすることが必要です。

高野教授
 クリエイティブ・コモンズを提唱しているローレンス・レッシングなどは、著作権おかまいなしに、マッシュアップでクリエイトしていくことこそが我々が創造していかなければいけない新しい文化だと主張しています。現在のプレーヤーの生活が30年後も再編成されずに成り立っていくという前提の議論に疑問を感じますが。

岸委員長
 音楽でいえばアーティストも怠けてしまっていることもあります。マッシュアップばかりで新しい表現スタイルが出ていません。マッシュからもいい作品が出てくる可能性はあります。ネット上で非難されるように既得権益側を過剰に保護する必要はありません。現状に対応できないところは潰れるべきです。しかし、ネット文化だけで大丈夫かというとそれは違います。

高野教授
 日本政府は制度面で支えていないという指摘がありましたが、アメリカは制度面が進められていたから、Google、Amazon、Appleが生まれてきたわけないと思います。制度面で具体的にどんなことを政府が支援していけばいいのか、具体的な内容を説明いただけますか。

岸委員長
 イギリスやドイツでは、コンテンツの流通側よりも、制作側を評価する政策を行っています。イギリスでは、クリエイティブ産業の育成ということでコンテンツ側に振興政策を行っています。日本の政策は、四つのレイヤーのうち、どこに力を入れるのかが見えていません。

植村委員長
 コンピュータが登場した時に人減らしのようなことが言われたが、結果的に膨大な労働人口と市場を生み出しました。しかし、ネットがこのような労働人口を作ってくれるのかは心配があります。何らかの手当は必要でしょう。

岸委員長
 自由化して競争力を高めた方がクオリティは高まります。
 書籍の使い道もアメリカは、個別の知が集まった分解可能なものという要素が強く、日本は、著者の思想、哲学を集めたものと、違う形で進化してきた点に注目すべきです。
 書籍は、音楽のように複数の収入源が存在しません。電子書籍に置き換わった際の収入の仕組みを成り立たせるのは難しいでしょう。

草場副委員長
 現在の電子書籍端末では、ユーザー側が一緒にクリエイトしていく段階にまで至っていません。日本のコンテンツパワーは大きいので、それを活かすクリエーション、コラボレーションを交えたシステムを作っていくべきです。

高野教授
 ネットは日本が大切にしてきたものを破壊する側面の方が強く、再構築、新しい参加者を増やしていく気がしません。
 例えば、携帯を買ったら、国会図書館の著作権切れが全部読めるとか、自動的に得られるベースラインを文化的に高めていけば、全体的なクオリティの向上につながると思います。
 電子化によって可能になるコミュニケーションが未来の本として可能になるはずです。大学図書館などを巻き込んで、これまで蓄積してきた文化を活かして欲しいと思います。

岸委員長
 これまでの出版・編集等から発想を変えていく必要があります。日本国内でももっと市場を拡げられます。SNSなども十分に出版の定義に入ります。既存の書籍や雑誌を電子に置き換えるだけでは拡がりません。
 出版の果たして来た役割として、知の構造化、体系化は大きい。体系的に学ばれる知識を電子書籍がどのように扱っていけるかに興味があります。

植村委員長
 学術情報や電子ジャーナルは、紙の論文に2割増しで電子版を付けました。当初評判がよくなかったものの、1~2年で紙は不要で電子だけ欲しいと変化しました。人文科学・社会科学系の新書など線を引きながら読みたい本、後で検索したいものには適しています。
 例えば、書店に端末を設置し、在庫が無くても電子書籍なら買えて、書店にも対価が得られる仕組みなど、全国津々浦々に書店があるというインフラを活かす手法もあるでしょう。

●最後に一言

岸委員長
 電子書籍の問題はこれまでの音楽など他のコンテンツよりも難しい。出版業界のプレーヤーがどう進化していけるかがポイントで、その中で印刷会社は重要な地位にいます。電流協も新たなプラットフォームを作れるはずです。

植村委員長
 最終的に出版文化として、私たちが出版物を入手できる、図書館で閲覧できるようにするためには産業としての側面をちゃんと持っていたからです。
 一方、面白いものを作るという側面が足りなさ過ぎます。新しい表現をするぞ、という方向に早く議論を移したいと思います。

草場副委員長
 皆さんが期待されるようなネットとコンテンツが自由に扱える端末は近い将来に出てきます。出版界だけでなく、端末メーカー、図書館、書店、取次の皆様と一緒に考えて、お互いに共存できる新しいビジネスモデルを模索していくべきです。

【本文終了】