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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.012

「公共図書館の電子図書館サービスを考える」—公共図書館のアンケート結果から考える、これからの公共図書館における電子図書館サービスとは—

【内容】
「国立国会図書館のオンライン資料収集制度及び図書館向けデジタル化資料送信サービスについて」
 国立国会図書館 電子情報部電子情報企画課 課長補佐 廣瀬信己氏

「電子書籍を公共図書館が提供するということとは」
 フルライトスペース株式会社
 満尾 哲広

「公共図書館における、電子図書館サービス導入の課題」
 成田市生涯学習部図書館主査 米田渉氏

「公共図書館と電子書籍
 ~「お散歩e本」から見えてきたこと~」
 愛知県田原市図書館 館長 豊田高広氏

「公共図書館における、電子図書館サービスについて シンポジウム」
 米田様、豊田様、廣瀬様
 コーディネーター 満尾 哲広氏

【日時】2013年10月29日(火曜)10時30分-12時00分
【場所】
 パシフィコ横浜展示ホールD奥フォーラム会場

■講演1

「国立国会図書館のオンライン資料収集制度及び図書館向けデジタル化資料送信サービスについて」
 国立国会図書館 電子情報部電子情報企画課 課長補佐 廣瀬信己氏

 国会図書館の電子書籍に関わる事業、「オンライン資料収集制度(eデポ)」と「デジタル化資料送信サービス」についてお話しします。
① オンライン資料収集制度(eデポ)
 国会図書館の資料収集は、昭和23年の5月から納本制度により、紙の図書・逐次刊行物を網羅的に収集するところから始まりました。平成12年には、電子出版物の増加に対応してCD-ROM等のパッケージ系電子出版物が対象になりました。インターネット上の無形の電子情報については、平成22年に法制度化され国と自治体の公的機関のWebサイトはすべて収集保存しています。
 一方、民間のインターネット情報は、なかなかサイトすべてを収集するわけにもいきません。そこで、オンライン資料で無償かつDRMのないものについて、オンライン資料収集制度(eデポ)により、収集を開始しています。
 オンライン資料とは、図書・逐次刊行物に相当するもので、電子書籍・電子雑誌等を指します。今年の7月から民間のオンライン資料も国会図書館への納入が法的に義務づけられています。
 納入義務対象は、インターネット等で公開された電子書籍・電子雑誌等でISBN、ISSN、DOIのコードが付されたもの、又は、PDF、EPUB、DAISYのフォーマットで作成されたものです。コードとフォーマットのうちどちらかを満たせば対象となります。PDFだがISBNがない、HTMLだけどISSNがあるなどはすべて対象となります。
 XMDF、.bookは、有償での流通を想定して作られたものなので現時点では含めておりません。将来的に、告示等を改正して含めることも検討したいと思っています。
 オンライン資料の収集は、URL等をお知らせいただいてロボットで収集するか、媒体に納めて送っていただきます。来年の早期には、国会図書館のホームページからアップロードしていただくインターフェイスも開発中です。インターネットにPDFやEPUBの形式で資料を掲載された際には、国会図書館にも納入をお願いいたします。
② デジタル化資料送信サービス
 デジタル化資料送信サービスは、国会図書館の100万冊を超えるデジタル化資料が公共図書館等でご覧いただけるもので「図書館送信」と呼んでいます。
 対象機関は、著作権法31条の1項にある図書館等で、各図書館での閲覧・複写利用が可能です。
 国会図書館は、平成21~22年の大規模な補正予算で、図書・古典籍・雑誌・博士論文等のデジタル化を行い、現時点で227万点の資料を提供していますが、このうちの132万点が送信候補です。絶版等資料に絞るため、入手可能性調査・事前除外手続・事後除外手続という三段階の除外手続を行っています。送信候補のリストを公開していますので、今後の出版予定等のお申出があれば除外いたします。平成26年1月のサービス開始後も、電子出版・復刻等のお申出を随時受け付けます。
 図書館送信サービスを利用するには、グローバルIPアドレスによるインターネット接続環境と、閲覧用・管理用の端末2台が必要です。閲覧用端末は、Windows Vista以降又はMacOS 10.6以降で、HTML5対応のブラウザが必要です。管理用端末は、上記に加えて複写サービスでPDFを印刷するため、Adobe Reader9以降とプリンターが必要です。
 準備が整ったら、承認申請書を提出していただきます。ホームページに詳しい説明や申請書の雛形をご用意しています。
 利用条件は、職員の方の目の届くところに閲覧用端末を設置すること、利用は、送信先機関の登録利用者の方に限定すること、閲覧利用の際は、職員の方がログインし、利用後は都度ブラウザを終了することなどです。この辺は、資料デジタル化及び利用に係る関係者協議会という出版者・図書館等の団体との協議機関で、従来の図書館間貸出と同様の手続を、ということで決まった運用のルールです。
 複写利用は、職員の方がプリントアウトして紙のみを渡すこととしており、利用者の方によるセルフプリントアウトは不可です。
 この利用条件は、デジタルコンテンツの流出や不正利用を防ぐためですので、ご理解をいただければと思います。

■講演2

「電子書籍を公共図書館が提供するということとは」
 フルライトスペース株式会社
 満尾 哲広

 一番大事なのは、現場としてどのように電子書籍とおつきあいをするか、避けて通れない中でどう取り組んでいくかというところの生の現場の声を入れたいと考えています。
 私は、6年前に千代田図書館に勤務しており、電子書籍を公共図書館として初めて本格的に提供することに取り組みました。それからさまざまな図書館の支援をしていく中で、電子書籍を公共図書館が提供するということとシステムを導入することとイコールと考えているところがあります。個人的には、この点に違和感があります。
 あくまで、サービスの一つとして、どう図書館が提供するかが大事です。とはいっても、システムは非常に大きな役割を果たします。

■講演3

「公共図書館における、電子図書館サービス導入の課題」
 成田市生涯学習部図書館主査 米田渉氏

 成田市立図書館は、電子書籍には対応していない館です。出版等の世界が電子化の方に進んでいくのであれば、図書館もそれについていけるような形にしていかないと、知のインフラという意味で大きく遅れるという危機感はあります。
 電子書籍には、なかなか踏み込めない理由は三つあります。一つ目は、一発芸としての電子図書館サービスは、正直失敗ではないか。継続がうまくいっていないのではないかという点です。二つ目が、ICタグの二の舞を演じたくない。三つ目が、自治体の会計の問題です。
 いま、出版自体が大きくデジタルにシフトしているとも言い切れない現状の中で、電子図書館サービスとして先行したところは、私が見た限り継続がしにくい。
 ICタグの二の舞というのは、複数規格の乱立、特定ベンダーの囲い込みです。先のことが判らない時点での投資はしたくありません。
 自治体の会計問題は、モノとしての本・図書館資料は備品、雑誌は消耗品、オンラインデータベース等は通信費です。通信費は、個々のデータベース単位で査定を受ける必要があります。図書館資料は、資料費があり実際の本の選定は比較的融通が利きます。オンラインデータベース系は、融通が利きにくくデジタルシフトがしにくい。また、図書館・自治体に著作権がありデジタル化した資料も、クラウドの電子資料データベースに依存すると、提供の継続性に問題がおきることがあります。 システムは標準化思考で、配信コンテンツの規格等は常に最新版にしたい。これは、アクセシビリティの問題でもあります。5年前に入れたモノが、そのときの調達のままで、更新が利かないというのはつらい。国会図書館がやるところ以外は、各自治体単位ではなく県レベル等で共同調達したい。システムの面では、せめて国内では規格を統一しておきたいと思います。
 電子書籍はオフラインでの提供、モバイルへの提供ができないと延びないのではないかと思います。そうなると、貸出が必要になるのでDRMを実装しなければいけない。
 パブリックのものと商用のものは、オフライン化で貸出ができるようにしたい。図書館・自治体に著作権がありデジタル化した資料については、オフラインにできるものは増やしたい。しかし核心としては、商用の部分が重要ではないかと思います。
 その他の問題としては、公共図書館はプライバシーを重視しているため履歴を基本的に保存しないシステムが必須です。
 電子書籍の提供ベンダーを寡占化させない仕組み、見つけやすさ向上のためOPACへの組み込みなどが必要です。APIを提供してもらい、図書館のOPACで検索してそこから利用するという形が望ましいと思っています。
 図書館の役割は、豊かな出版と豊かな情報流通があってこその日本の人的資源向上です。無料ベース+有料でサービスが成立していることを考えると、公共図書館の受け持つ部分は無料の部分だと思います。あくまでも豊かな出版が続かないことには、公共図書館も続きません。うまく落としどころをお互いに見つけられればと思います。

■講演4

「公共図書館と電子書籍
 ~「お散歩e本」から見えてきたこと~」
 愛知県田原市図書館 館長 豊田高広氏

 地域づくりを重視するという方向性で考えたときに、電子書籍は地域資料を活用する重要なツールとして使いたいと考えています。そうした考えから出てきたのが、「お散歩e本」です。
 この本は、田原市内でお散歩のワークショップを行い、その成果をガイドブックとしてまとめたものです。ふるさと学習の教材として使うことも、観光ガイドとして使うこともできます。内容は、テキストだけではなく、写真や映像も入っており、EPUB3で制作しています。田原市図書館のWebトップページから簡単にお読みいただけます。EPUB対応ビューアだけではなく、「bookpic」という電子書籍の閲覧サイトを通じてブラウザ上でも閲覧できます。
 お散歩e本は、図書館の予算ではなく、田原市と愛知大学との連携協力に関する協定に基づいて、委託研究契約で政策推進課の予算で作りました。
 刊行の大きな目的は、三つあります。「地域の存在価値を目に見えるようにする」・「地域に密着した新たな図書館の具体的なイメージを示唆」・「未来の「司書」教育のモデルを提示していく」ということです。特に重要なのが、最初の地域の存在価値を目に見えるようにすることです。「地元学」という、地元にある良いもの、有るものを探そうというコンセプトと同じ発想で、ワークショップを通じて街の宝、良いもの、在るものを探し、発掘するのがまず第一です。これによって、地域の存在価値が目に見える。ワークショップには、外の方に入っていただくのが非常に重要です。今回のワークショップの場合には、愛知大学と三重県の皇學館大学との先生・学生にも入っていただいています。
 こうしたことは図書館だけでは、なかなかできません。そこで、大学との協力は非常に重要ですし、街の方々や他の行政機関との協力も必要です。そういう方々に対して開かれたネットワークの拠点となるということが図書館の新しいイメージとしてでてきます。
 司書の役割も変わってきます。特に、プロデューサー、コーディネーターとしての能力が重要です。
 昭和30年代に作られた火の見櫓も地元の人にとっては当たり前の風景です。しかし、よその人にとっては違います。外の目で街の宝を発見し、地元の人にインタビューをし、撮影をしたり映像を撮ったりする。このコースをつくるときに、図書館の地域資料が使われています。インタビューやお散歩の感想を元に原稿を執筆し、書籍の形で編集・電子書籍に落とし込んでいきます。
 使っていただいてなんぼなので、加工・転載や営利・非営利を問わず二次利用を可能にする方がよい。その方法として、クリエイティブコモンズのライセンスを利用します。
 この実験で判ったことは、地域資料は集めるのも、活用するのも大変です。地域資料が作られること自体が少ないので、図書館の側でワークショップやイベントなど、人の動きをデザインすることによって、収集や活用の新しい場面を作り出すことが重要です。
 ワークショップや電子書籍の制作等の活動は、外の方々を引き入れてきます。そこから、連鎖反応のようなものが起こって、どんどんいろんな人たちが関わるようになります。これが、地域社会にいろいろな活性化のインパクトを与えます。
「地元学」自体が、地域の新しい資源を見つけること、それをみんなで共有することで、地域社会に活性化のインパクトを与えるものです。これに、電子書籍というツールを加えることで、さらに与えることができる可能性が見えてきました。
 本年度は、次のステップとして、新しい切り口で行います。今度は田原市内の不思議をテーマに、民族学や地質学などさまざまな切り口で取り上げます。電子書籍制作の技術も、図書館員・一般市民も学びます。これで、自作の電子書籍が出てくるような形を作ろうと考えています。
 この事業については、本年度から「公民館等を中心とした社会教育活性化プログラム」により文部科学省の委託事業として実施しています。
 こうしたことが、電子書籍に関する経験や知識・スキルを蓄え、図書館の本格的な電子書籍化に備えるために一番いい方法ではないかと考えています。

■講演5

「公共図書館における、電子図書館サービスについて シンポジウム」
 米田様、豊田様、廣瀬様
 コーディネーター 満尾 哲広氏

・満尾哲広
 国立国会図書館と公共図書館の方が電子書籍について並んでお話するというのは、なかなか無い機会だと思います。
 国会図書館と市町立図書館として、電子書籍について連携していくということがいいのでしょうか。

・廣瀬信己
 国会図書館としては、図書館送信サービスを電子書籍導入のきっかけにしていただきたいと思っています。最新のPCとブラウザがあれば利用できるので、商用の電子書籍サービス等を今後導入される場合にも同じ端末でできれば経費も安く済むと思います。
 各図書館でデジタルアーカイブを構築するといった、多様な資料の利用が全国に広がるといいと思います。

・米田渉
 図書館送信サービスには、非常に期待をしています。
 成田市立図書館OPACは、自館所蔵だけでなく、県立図書館所蔵で相互貸借可能なものは同時に検索・予約の受付も可能です。デジタル化した地域資料も横断的に検索できます。これによって、利用が非常に延びています。国会図書館の資料も、最終的にはそれぞれの市町村立図書館のOPACで検索可能になるのが望ましいと思います。そうした意味で、FRBR化が必要です。

・廣瀬信己
 特定ベンダーの囲い込み・寡占化はよくないと思っています。図書館送信サービスのDRMは、ブラウザで普通に動作し、ソフトウエアを意識させない仕組みになっています。
 図書館側としてできるだけ導入しやすいような、システムなり仕組みなりをベンダーさんにも考えてもらうのが大事だと思います。

・満尾哲広
 各ベンダーさんの考えもあると思いますが、共通化できる流れができればいいと思います。
 国会図書館と都道府県立図書館、市町村立図書館の関係も注目されているところだと思います。都道府県・市町村立の役割についてはいかがでしょうか。

・廣瀬信己
 都道府県立図書館には、図書館送信サービスを率先して導入していただき、市町村立あるいは大学図書館に広めて欲しいと思います。
 今回、100万冊を超える資料が近くの図書館で閲覧できる、という新たな政策のツールが加わったと考えていただいて、社会教育政策・文化政策等の一環として導入していただければと思います。

・豊田高広
 ここ1~2年、デジタルアーカイブを地域で作っていくにあたって「MALUI(マルイ)」の連携が重要だと考えています。Mがミュージアム、Aがアーカイブで文書館とか公文書館、Lがライブラリー、Uがユニバーシティで大学、Iがインダストリーで産業とか企業です。
 今回お散歩e本の経験で大事だと思ったのが、コミュニティーのCと自治体・国などのガバメントのGで、「MALUI+CG」が大事だと感じています。
 最初からそれぞれの機関の代表者が集まるのではなく、どこかが、まず最初に一石を投じる。それをおもしろいと思えば、他の機関が反応していく。積極的に一石を投じた側も働きかけをして、次々と連動していく、動きが連なっていく。これが非常に重要だと思います。それが、最終的には地域社会の活性化にも繋がっていくと思います。
 最初にやるのは、図書館である必要は必ずしも無いと思います。しかし、どこかで図書館が関わった方が資料の蓄積や活用面でも、図書館が培ってきた制度というものが役に立つと思います。

・廣瀬信己
 図書館をはじめとする各機関がもつ地域資料のデジタル化は非常に大事だと思います。今回、国会図書館の所蔵する絶版等資料は送信できるようになったわけですが、国会図書館以外にも、絶版等資料は日本中のMALUIにいっぱいあります。個人的見解ですが、絶版である限りは商業セクターとの競合は起きにくいので、権利処理がなくても全国の図書館等で共有できる、というような枠組みがあってもいいと思います。
 地域資料・MALUI連携というところについて、新しいデジタルの時代のルールにはこうしたことが必要だということを各機関の立場から考えて行けば国としてもいい形になるのではないかと思います。

・米田渉
 ネットに上がることのすごさは、鈴木三重吉という方の手紙を3月にネットに上げたところ、テレビ番組で資料として使われました。デジタル化して、みんなが見られる形になることは可能性があることだと思っています。
 狭義の意味での電子書籍は、出版界とうまくすり合わせをしたシステムがないことには動かないものです。地域資料のデジタル化とは別に、プライバシーのことも含めて使いやすいシステムを構築していかないといけません。

・豊田高広
「社会教育活性化プログラム」と似たもので、「住民生活に光を注ぐ交付金」がありました。どちらも少額だけど資金提供をしてくれる、背中を押してくれるいいものだと思っています。
 ICTなど、いろんな可能性がでてくる中で、新しい試みをやろうとしても必要な資金がない・人がつかない、こうしたことをうまく支える仕組みを国が用意し、同時に、やったことをみんなで共有できる形も必要です。
 貸出総点数を争うのは、行政評価が間違った形で入っているためだと思っています。先進的・先導的な事業を評価できるシステムを考えていただきたいと思います。

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