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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.010 「公共図書館のデジタル化」

公共図書館でのデジタル化活用事例、電子図書館導入事例、韓国の先進事例から

2012年11月20日 13:00-14:30
パシフィコ横浜 第八会場 (E206)

パネルディスカッション

●山崎榮三郎
 デジタル化や電子書籍の重要性について一言いただければと思います。

●山崎博樹
 スペースという制限を越えてしまうということです。小さい図書館でも大きい図書館と同じことができます。
 また、自分たちの持っているものをデジタルにすることによって、今まで見せられなかったものを見せることができます。どうしても今の公共図書館は、予算削減・人員削減もあります。365日開いている図書館もないと思います。職員が休めませんから。そういう現状を変えることができます。デジタルであれば24時間提供できます。
 私どもでは子育ての本を提供していますが、夜に子供が熱を出して泣いている場合、病院につれていった方がいいか判断できないとします。このときに、今はネットで情報を得るしかありません。Wikipediaやネットが本当に正しいか分かりません。一方出版された本の情報であれば、一定の編集作業を受けて制作されたものなので、ある程度は使えるものです。電子書籍であれば、図書館に来なくても、泣いている子供の目の前で手に入れて読むことができます。最近の家族は、核家族化しているので相談できる相手がいません。それを簡単にすることができるというのは、デジタルアーカイブであったり電子書籍のメリットのひとつだと思います。
 もう一点は、どうしても本としては提供できないものがあるという点です。実際には刊行されていたけれども、ある時点でなくなってしまった本というものがあります。書店に販売されている本が置かれるのは半年程度です。こうした本は図書館にあるケースもありますが、すべてを確保しているわけではありません。一定のところでもう一度再販していただけないかというお願いをしていますが、商業的なものとしてもう一度刊行するのは、費用や需要からも難しい状況です。しかし、電子書籍であれば、もう一度出してもらえる可能性があります。一度、商業チャネルにあったものが、公共チャネルに戻って行く流れがここにあると思います。

●山崎榮三郎
 図書館用の電子書籍コンテンツの量がなかなか増えないということもあります。出版界の動向はどうなんでしょうか。

●盛田宏久
 出版社へ行って“図書館”というと、「何しに来たの」と言われて追い返される日々でした。最近は少し雰囲気が変わってきて、話を聞いてもらえるようになってきています。
 単純に同じ本を図書館に売るというよりは、図書館向けにはこういうものがいいのではないかという前向きなことを言ってくれる出版社がでてきています。そういう意味ではいい方向になってきているのかなと感じています。
 具体的な例としては、札幌市の場合は市内に居を構える出版社に集まってもらい勉強会をやっています。出版契約の仕方や図書館とどういう形で提携するかなどを検討いただいています。
 信頼関係を築きながらなので、時間はかかりますがやっていくしかないと思います。地域や地方に根ざしたものを図書館に出版社と連携してやっていただけるような話を進めています。

●山崎榮三郎
 秋田県立図書館では、以前から取り組んでおられるデジタルアーカイブや、最近始められた電子書籍サービスなどで、著作権問題への指摘がありました。更には、先ほどの具体的事例の話の中で、デジタル化による課題解決型サービスへの対応についての話がありましたが、その辺をもう少しお願いできますでしょうか。

●山崎博樹
 苦労はあまり感じませんが、課題は確かにあります。図書館で来館する人の課題解決をしているというのを世の中の人は知りません。図書館は本を読むところ、本を貸してくれるところという単純なイメージでとらえています。県立図書館と市町村図書館でも役割が全く違っています。それぞれに図書館が目指しているものには差があります。これは、外から見ると全く見えません。
 平成12年に、ビジネス支援を始めましたが、当初はかなり苦労しました。
「図書館がそんなことをやっていいのか」と身内の図書館関係者からも言われました。これは、図書館の存在がなぜあるのかということに関係してきます。図書館は、そもそも本を貸すためにあるわけではありません。地域を活性化させたり、住民をサポートするために図書館はあります。図書館自身、この原点に返るということがなかなかできていませんでした。そういう意味では電子書籍もデジタルアーカイブもまったく同じ状況です。そもそもそれが住民にどう役に立つのか分かっていなければできません。
 平成7年にデジタルライブラリをやりたいと上司に言ったとき、まずそれ何という反応でした。何の役に立つのか、なぜうちが始めなければいけないのかということを言われたことを憶えています。当時はインターネットが急速に普及している時でもあったのです。当館では平成8年に提供させていただきましたが、多くのマスコミにも取り上げられました。館長室にも電話がかかってきました。「よくやってくれた、今までの図書館ではなかなか見せられないものを出してくれた」ということを言われたことは嬉しかったです。
 こうした新しいサービスの理解は内部でもなかなか進みませんが、外部には図書館の新しい姿が見えていません。出版社の方と話していて、図書館がビジネス支援・子育て支援をしているというと、「え、そうなんですか」といわれるのが一般的ではないでしょうか。図書館がいろんなことをやれる可能性を持っているということを内部・外部に説得するのに一番苦労しています。
 電子書籍もそういう意味でいくと、まず図書館員の意識が変わっていないと思います。図書館の職員はアナログの山の中にいます。毎日、本の中にいます。毎日アナログの本を見ていると、それでいいような気がしてきます。片方で、新しいサービスをやっていて、今まで図書館に来ない人たちがおりますが、この方々を無視していることになります。このようなことも考えてサービスを構築していかないといけないのに、本の壁があることで気付けないでいます。
 アーカイブについての講演をよく頼まれますが、図書館の関係者から怒られることもあります。あなたはデジタルばかり言っている。私たちには関係ない話だと言われます。
しかし、そんなことを言っているうちに隣の国に越されてしまいます。
 日本は情報をあまり大事にしない国だなと、最近つくづく思います。このままでは、世界の中で情報のガラパゴスになってしまうのではないかと気にしています。

●山崎榮三郎
 そういう環境の中で、これからデジタル化ということを推進して行くにはどんなことを具体的にやっていったらいいでしょうか。

●盛田宏久
 某県立図書館で、電子書籍の勉強会があったときに、県内でデジタル化を進めたいが、人もいなければ物もない。どうしたらいいでしょうという話がありました。
 公共サービスでありながら、人・物・金があるところは導入していただけますが、ない地方は置き去りにされるという感じがしています。
 地方に行けば行くほど、例えば県立図書館が中心になって、各地域の公共図書館とうまく連携する枠組みができないか考えております。
 例えば、各公共図書館のデジタル化したい所蔵資料について県立図書館が集約してデジタル化するといった、新しいスキームがないと推進できないのかなと思います。

●山崎博樹
 私のところにも、いろんなところから質問がきます。一番多いのは、仕様的なものシステムが分からないというものです。日本の図書館でのデジタル化は、それぞれ勝手に行われています。図書館や自治体ではデジタル化をやっていないわけではありません。昨年度は、光交付金事業(総務省)がありましたが、それを利用して秋田県内でもデジタル化されたものがあります。しかし、デジタル化したものが実際に提供されているのかどうか、さっぱり見えてきません。デジタル化で終わってしまって、WEBで提供する仕組みが分からないという状態です。例えば、Wikipediaに上げようという話があったりします。どれだけ上げられるでしょうか。小さい図書館では自分のところでシステムを作るというのは、とても難しいことです。そもそも技術的な基盤がありません。そこをやるには、県立図書館とか、国レベルでサポートしていかないとだめです。
 先ほど、お金と人の問題がありましたが、お金はそれほどの問題ではありません。お金は補助金などいろいろ付きます。それに人がうまくマッチングすることが、できないでいます。しっかりした人さえいれば、お金をうまく使うことができます。システムにも提供することができます。現在の日本の図書館教育の中では、こうしたことがほとんどありません。私も大学で図書館学を教えていますが、図書館に関する技術の部分はすごくチープです。今の高校生たちよりも低いのではないでしょうか。非常にまずい状態です。図書館が電子図書館をやったり、デジタルアーカイブ・電子書籍をやったりしている状況の中で、図書館に入ろうと思っている人は本好きの人です。デジタルのことはいわないでくれと言われた先ほどの話からもわかります。
 一方で情報や技術に詳しい人はなど、いろんな人が自治体から図書館に来てデジタル化をやって下さるのはいいのですが、図書館司書として長く居てくれるわけではありません。私はたまたま20年やってきましたが。普通は、デジタル化をやって数年後に出ていってしまいます。残された方は、自分たちが何をやっているのか分かりません。そういう意味で図書館における技術関係の教育の問題と言うのは、これからの大きな課題としてあります。昨年の「知のアーカイブ研究会」でも結論として、人作りをしなければいけないというのが残りました。図書館の中にデジタル的なことを扱える人材を図書館界が上げてやっていかないとまずい状況になっています。

●山崎榮三郎
 今の図書館員は何から手を付けていいのかという観点はどうでしょうか。人の育成は時間のかかることだと思います。制度的な問題でもあります。
 図書館の人たちは、今、どこから、どう進めたら具体的に進んで行くのかという悩みを抱えているのではないでしょうか。

●山崎博樹
 人作りは、確かに時間がかかります。昨日もビジネスの講習会の講師をしていましたが、最後に講習生に言ったのは、すぐに実践してみるということです。実践しないで勉強ばかりしているのが問題です。
 私は、平成7年から取り組みました。工学部の出身ですが、デジタルの専門家ではありません。何もマニュアルがない状況でいろんな人に教えてもらいながらやってきました。図書館員は慎重すぎるのが問題です。試みは転がり出せば先に進みます。例えば、自分たちの図書館にあるものを少しスキャニングするところから始めてもいいわけです。それを貯めることによって、これをどうにかしなければいけないという課題が生まれます。
 デジタル化を始めたのにはキッカケがありました。平成6年に図書館大会があって、ある図書館の方が私どもの図書館に来て、先ほど紹介した貴重資料を見たいと言われました。先輩に見せてもいいか確認したら、「とんでもない見せるものではない」と言われました。見せるものではないものをなぜ図書館で持っているのか? いつ見せられるのか? これがキッカケとなりました。実際に何ができるのか考えて、2年後には公開することができました。そんなに難しいことではありません。誰もができることを難しく考えすぎていると思います。まずは、簡単なことから実践するのが重要です。デジタルカメラで街を撮影して、定点観測している図書館もあります。それを自分のホームページで提供してもいいでしょう。それによって街の変遷も分かります。ポスターなどを集めてデジタル化して、観光的に使うことなど、少しフリーな考え方でやってみる。技術はやっているうちに分かってきます。
 自分たちの職員にも言っていますが、デジタル用語はお経みたいなもので、毎日唱えているうちに何となく分かってきます。初めて聞くことは抵抗がありますが慣れでなんとかなります。以前、上司を説得するのに、一日30分はデジタルの話をしました。聞いているうちに、世の中はそれが当たり前のように思えてきます。こういうことが大切で、特別なもの難しいものと思っている段階では進みません。図書館員は、むしろこういう講習会などに来ないで、自分の図書館で実践する方がいい。勉強してから始めようと思うのが問題です。

●山崎榮三郎
 まず、身近なところから始めようということですね。

【講演終わり】

【本文終了】