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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.010 「公共図書館のデジタル化」

公共図書館でのデジタル化活用事例、電子図書館導入事例、韓国の先進事例から

2012年11月20日 13:00-14:30
パシフィコ横浜 第八会場 (E206)

デジタルアーカイブの現状と課題 -秋田県立図書館の事例から-

【講師】
秋田県立図書館副館長
 山崎博樹

・地域資料デジタル化の現状
 地域資料デジタル化は、都道府県立図書館で約25%です。市町村立の約3%と比べて多いといえますが、都道府県は47、市町村自治体数は約1700なので、図書館数ですと市町村の方が多く、また、記事索引や主題別索引DBを含んでいるので一般的なデジタルアーカイブはかなり少なくなります。
 Webでの地域デジタル化資料の提供状況は、そもそも地域資料HPで出しているケースが多く、政令市の図書館では約40%ほど実施されていますが、その他の自治体ではあまりやられていません。これは平成19年の調査で5年経過していますが大きく変化していないと思います。

・デジタルアーカイブの成果
 秋田県立図書館でデジタルアーカイブを行っていることの成果としては、地域資料の活用・地域資産の保存・地域の活性化があります。
 地域資料の活用では、地域の刊行物や文化財等を展示会で使っています。展示会では、再度アナログ化する印刷パネル等で見せています。例えば、貴重資料やポスター等は一度デジタル化しないとパネルとして印刷できません。
 デジタルアーカイブの大きな課題としては、電子情報の長期保存は難しいことです。例えばパソコンOSの変更や、閲覧するソフトウェアの更新によって読めなくなるなど、当初のままのデジタルアーカイブだと、およそ10年で3/4は使えなくなるという報告もあります。デジタルアーカイブを長期間閲覧できるようにするためには、適切な処置が必要で、最近はクラウドサーバに保存して利用するケースも考えられています。
さて、デジタルアーカイブを活用した、地域の活性化施策としては、地域ブランドへの活用があります。デジタルアーカイブを利用したビジネス支援の例をご紹介します。当館がデジタル化した資料に『菅江真澄遊覧記』があり、この資料には湯沢市三関地域は江戸時代から土壌が良かったという記述があります。県内の農家がこの資料を地域のサクランボのパッケージに使用して、ブランドの構築に利用しています。このように貴重資料のデジタル化は、思いがけない効果があります。また当館所蔵の『解体新書』は、デジタル化したことにより教科書・参考書に使われています。さらに『御曹司(義経伝説)』資料は、デジタル化して公開したことで県文化財指定を受けました。デジタル化には画像だけでなく、口述資料もあります。ユネスコ公共図書館宣言の中に「口承伝文化を守る」とあることもあり、平成11年に秋田の民話を11人から10話ずつ収集しデジタル化しました。その内の5名がすでにお亡くなりになっており、紙は、数百年持ちますが、口承文化は10年単位で消えていきます。これらはデジタルで守っていくべき最たるものです。

・デジタルアーカイブの課題
 デジタルアーカイブの制作には、デジタル化する技術手法が明確に規定されていないという課題があります。私が国立国会図書館で仕事をしていた際にデジタルアーカイブについてのマニュアルを制作したのは、多くの自治体ではある一定の指針がなければ何をどうデジタル化していいか分からないことが多いからです。その後、全国の自治体などから電話での相談があり、図書館からは「この(デジタルアーカイブ化する)見積もりは正しいでしょうか」とか、一方では業者からは「この(デジタルアーカイブ化する)仕様は正しいでしょうか」と聞かれます。デジタルアーカイブについての仕様や見積については、両方とも客観的には適切かどうかはわからないところがあるといえます。
 デジタルアーカイブは保存の役目もあると言われていますが、まだ長期保存に関する指針も特に決められていません。一般的にはデジタル化してCD-ROM等のメディアへ保存をしますが、作業を実施した担当者が変わるとまず保存した媒体の所在不明になるケースがあります。ネットワークのサーバー上のハードディスクに保存するのであれば、その点は心配ありませんが、本のように形としてわかる保存はできません。
 他の課題としては、地域資料としてなにがあるのかという情報も課題です。地域資料のなにをデジタル化するかを知っているに担当者がいないと、自分の図書館に地域資料としてなにが有るのか分からなくなっています。

・電子書籍の導入状況
 秋田県立図書館では、平成24年10月19日から電子書籍提供を開始しました。
 この電子書籍の提供は、アメリカや韓国に比べると非常に少ない状況です。また、現在電子書籍として提供されているコンテンツも、3~4割が青空文庫やグーテンベルク21といった著作権が切れている作品です。地域の図書館の可能性としては地域出版との共同で実施する電子書籍の提供有るでしょう。
 また、電子書籍の技術的な課題は、どんな電子書籍フォーマットを提供するかもあります。現在は多くがPDFで提供されていますが、このPDFで提供することが適切かどうかは課題となっています。現在、電子書籍のデータは、印刷などの制限がされていますが、詳しい人なら簡単に解除することも可能で、やはり、フォーマットによる課題は多いと言えます。

・電子書籍の導入課題
 電子書籍を導入する上ではまず、DRM(著作権管理)の問題があります。これがないと、著者や出版社などから、電子書籍を図書館で提供することについて協力が得られないことがあります。
 コンテンツからみるとまだまだ図書館に適したものがあまりありません。県立図書館なので、市町村図書館でも配信を始めたときに、県立と市町村立で提供するコンテンツをどのような棲み分けをするのかが問題となります。もし、県立と市町村立図書館で電子書籍を提供する場合は、同じ住民に同じ電子書籍を重複して提供しないようにすることなどそれぞれの役割分担が必要です。
 次に課題としては、図書館職員の技術的な理解が全く進んでいない点です。「電子書籍」を知っていてもフォーマット・DRMなど具体的知識がまだまだありません。よって、電子書籍でコンテンツを提供することは、実際にやってみないと解らないことが多くあります。図書館で、電子書籍の提供する場合と紙の本を貸し出すことは、全く違った性質を持っていますが、現在だと図書館員は両者を同じように考えがちです。このギャップはかなりあります。違った特質を持っていますから、やり方や内容も変えなければいけません。

【講演終わり】

【本文終了】