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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.008 電子出版セミナー

『国際標準規格EPUB3.0と印刷メディア市場』

2012年05月30日 13:30-15:30
日本教育会館8階 第2会議室

『EPUB3.0調査報告の概要について』
 発表 電流協・EPUB研究会

(1) EPUB3.0調査の目的

 田原恭二(たはら きょうじ) (EPUB研究会座長 凸版印刷)

 2011年10月に日本語の縦書きなどにも対応したEPUB3の仕様がIDPFより勧告されました。ご承知の通りEPUBはオープンスタンダードを目指しており、誰でも利用することができます。また、海外でも扱えるフォーマットであるなど、国際標準としてのポテンシャルも高く、さらにアクセシビリティ確保などへの期待も寄せられているフォーマットです。
 ただ、ここまではあくまでもEPUB3の仕様が出来たという段階であり、今後このEPUB3のコンテンツが数多く制作され、流通していかなければ市場やビジネスとしての広がりは現実になりません。よって、2012年は「EPUB3の普及」ということが大きなテーマであると認識しています。電流協のEPUB研究会は、このような課題意識を背景とし、活動を開始しました。
 出版物の制作フローを大別すると、編集→制作→表示の3つのレイヤーに分類することができると思います。これらのレイヤーは、紙の書籍では、指定→デザイン→印刷ということであり、電子書籍の場合は、タグ付け→スタイル指定→ラスタライズと言えます。
 この中の制作レイヤーでは、「編集レイヤーで期待される表現が可能か」あるいは「コンテンツが意図通りに表示されるか」といったことに対する技術的な検証や保証が求められます。
 私たちは制作したEPUBコンテンツが、どのビューアであっても意図通りに表示されることを期待しています。しかし、現実には各ビューアのEPUB仕様実装状況によって、表示結果が微妙に異なるといったような状況が起き得ます。
 このためコンテンツ制作者は、実際にコンテンツ制作を行う前段階で、サンプルとしてマークアップデータを用いて、各ビューアの実装状況を調べたり、あるいは表示結果に関するビューアの特性のようなものを調べたりして対応していると思います。
 このような作業を、各社が個々に行っているとすれば、業界としてムダだと思います。それはEPUBの普及スピードにも少なからず影響をおよぼしていると思います。
 よって、このような制作に関わる共通の課題は、電流協が中心となって調査・蓄積を行い、その成果を各社へ水平展開することによって、業界全体のレベルアップやEPUBの普及、ひいては電子出版市場形成のスピードアップに繋げられると考えています。
 EPUB研究会による今回の調査は、ビューア関連、オーサリング関連、コンテンツ記述方法の三つの視点に分けて体系的に行いましたが、EPUB3の対応環境がまだ十分に揃っていない状況での調査であり、限定的です。EPUBの対応環境は、これからもっともっと充実していくと思われますので、EPUB研究会の活動も継続する必要があります。
 IDPFをはじめ、EPUBを推進するその他の団体においても、今年はEPUBを普及させる年であるという理解は同じであり、連携を図りながら進めていきたいと思っています。

(2) EPUB3.0調査報告の概要

 福浦一広(ふくうら かずひろ) (EPUB研究会委員 インプレスR&D)

 米国出版社はEPUBで書籍を作っています。主要な電子出版ベンダーが対応しています。Barnes&Noble・Koboや、直接対応ではありませんがAmazonの入稿フォーマットの一つになっています。
 表示で特徴的なのは、ディスプレイサイズに応じてリフローする点です。紙のイメージをそのままというPDFとは大きく違います。
 仕様の特徴は、Webの標準技術を採用している点です。コンテンツはHTMLで記述し、レイアウトはCSSを使っています。EPUBを形作っているのは、ページの表示順序や、書誌情報を独自のXMLで書いている部分です。基本的には、HTMLの制作知識があれば制作できます。
 EPUB3.0は、次世代のフォーマットになるHTML5と、CSS3を先行して採用しています。CSS3により日本語の縦書きなどの独自表現をサポートしました。他には、アクセシビリティやインタラクティブなコンテンツを作るための新しい技術なども採用しています。日本以外の国では、縦書きよりインタラクティブなコンテンツや絵本などの新しい表現体系として見ています。
 EPUB3.0は、仕様が決まったばかりで、まだコミックや一部だけ限定的に使われているだけです。純粋な形でのEPUB3.0対応のストアは限られているため、出版社は様子を見ているという状態です。
 EPUB3の制作について、記述指針が二つ出てきました。
 ・JBasicマークアップ指針
 ・EPUB3における日本語ベーシック基準

 オープンかつフリーな仕様は、その範囲内ならどんな書き方をしてもかまいません。Aでは表示されるが、Bでは表示がおかしくなるという書き方では、商用サービスとして致命的です。そこで、記述指針が出されました。仕様と誤解されがちですが、書き方の目安を定義したものです。二つのどちらを使ってもかまいません。また、どちらかを使わなければならないというのも間違いです。
 両指針の共通点は、より書式が厳密なXHTMLでの記述・レイアウトはスタイルシートにまとめて外部に書く・見出しと本文を区別して定義・縦書きと横書きの混在は推奨されないなどです。これらは、EPUBを作る上での7~8割の基本で、ここを外れてしまうとまともなEPUBになりません。
 両指針の差異点は、IDPFの仕様がどちらにも読める、あるいは定義していない部分です。その部分が、制作する立場からすると一番肝になる部分です。
 例えば、扉のページで文字が中央に揃わない問題です。リフローは文字サイズが自由に変更できるので、それに応じて行数も変わります。従って、中央という概念がありません。
 もう一つは外字表現です。UTF-8は、かなり広く文字をサポートした文字コードですが、サポートされない文字もあります。古典などの外字は、今のところ画像で表現するしかありませんが、入れ方で再利用性が損なわれる可能性があります。
 紙を電子にするときに、考察されていなかったところが他にもたくさんあります。
 二つの指針の差に目が行きがちですが、考え方は基本的に一緒で、どちらの記述指針を用いても問題なく作成可能です。JBASICはコードとしてきれいな体系で、EPUBJPは書きやすい記述方式です。どちらを使いたいかというと、非常に判断が難しいです。
 印刷用データからの変換という視点も欠かせません。評価の時点でInDesignからEPUB3.0形式の出力ができませんでしたので、別の形式に保存してEPUBオーサリングソフトで3.0形式に修正しました。現状では、印刷用データからの変換環境はまだ整っていません。
 最大の問題点は、EPUB3対応ビューアで、標準となるものが無かったことです。
 このあたりが、今回の調査のポイントです。

(3) EPUB3.0研究部会「今後の活動・方向性」

 高橋仁一(たかはし ひとし) (EPUB研究会副座長 大日本印刷)  ビューアの課題として、EPUB3.0の仕様を実際に表示として実現する上での解釈に揺れがあります。例えば、縦中横では、オーバーフローするものと、そのまま並べてしまうものがありました。また、ルビが指定の位置に表示されないなど、揺れというよりは実装レベルで表示品質の差もあります。
 制作環境は、まだ不十分です。EPUB3対応といっても、フォーマット的に対応したもので、データの中身・記述の仕方まで保証しているものは基本的にありません。規格としては幅広い機能を策定できていますが、製品・サービスとして世の中に出していくにはまだ危ないところがあります。
 出版者が要望する表現能力とのギャップもあります。従来の紙メディアの表現をどこまで継承するのか。日本語コンテンツを電子書籍で流通させるためにどこまで盛り込んでいけばいいのか。これは、最終的にユーザーが電子書籍に何を望むかに結びつくと思いますが、現時点で見る限りEPUB3.0を取り巻く環境は、電子書籍サービスを安定的に制作・流通させるには不十分だと言えます。

 今年度の活動の方向性は、大きく三つあります。
 ・IDPFに参加し、仕様策定に向けて議論に参加する。
  要望を含めた情報の投げかけや、情報のキャッチアップなど積極的に交流を進めて行きます。 
 ・EPUB記述指針 ビューア・制作プロセス等の動向を引き続き調査・評価して発信する。
  課題の抽出や解決策に結びつけることや、その先の流通の強化への取り組みを継続的に進めて行く必要があります。ツール類も段階的に充実してきていますので、制作・流通の機能自体を評価することも必要になります。
 ・セミナーやシンポジウムを実施し、普及促進を図る
  裾野を広げ、普及・啓蒙的な活動を通じてニーズや情報収集を行います。IDPFと解決策を一緒に考えることや、収集した情報を自らの制作流通機能として取り込んで行くことも必要です。

 以上の三つの事項を、EPUB研究会・電流協としても継続的に取り組んで行くことになります。
 これらを含むさまざまな課題に対して、スピードを持って進めていかなければならないので、電流協にご加入いただいて参画していただけると幸いです。

【講演終わり】

【本文終了】