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電子出版制作・流通協議会



News Letter Vol.005 【講演録】図書館総合展フォーラム

「電子出版の現在と未来 ~電子出版の最新動向と今後のアクセシビリティについて考える~」

2011年11月09日 10:30-12:00
パシフィコ横浜

一般社団法人 電子出版制作・流通協議会
 特別委員会委員長
  丸山信人委員長(インプレスホールディングス)

 平成22年度総務省からの委託事業「新ICT利活用サービス創出支援事業」の詳細と、視覚障害者の方をはじめ、読書障害者の方々にも電子出版を本として読んでいただけるためにどういった技術が必要かということを検討してきましたのでご報告させていただきます。
 みなさまの中で、実ビジネスにこの技術を使っていただいて、できるだけ多く新たに読んでいただける環境作りをしていきましょうというのが、今日の趣旨です。

●電子出版とは
 2010~2011年に電子出版ブーム到来ということで様々な報道されましたが、現在、そのための準備をしているところであり、2012~2013年にかけて、ようやく電子出版の時代になってくると考えています。
 また、電子出版と電子書籍はすべてがイコールではありません。電子出版の方が大きい概念で、電子書籍はその一部分となります。電子出版のジャンルには、次の8つくらいに分類されます。

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電子出版の分類
 1. 書籍
   (1) 一般書(文藝、教養、実用 等)
   (2) 専門書(自然科学・社会科学・人文科学 等)
   (3) 児童書(絵本 等)
 2. コミック
 3. 雑誌
 4. 芸術(写真集、画集 等)
 5. 教育(学習参考、副読本 等)
 6. 辞書・辞典
 7. その他(法令集、判例集、地図、楽譜 等)
            (C)Nobuhito Maruyama 2010
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 この内、文藝やコミックは、既にケータイを中心として市場が立ち上がっていまし、辞書・辞典・地図等もデジタル化がされていますが、これからは様々な端末に対して提供していくという流れになります。また、それ以外の書籍は日本ではこれから本格的な提供となりますし、雑誌についても、米国でも日本でもこれからのマーケットとなります。電子出版と一言でいっても、幅広いジャンルがあることをご理解いただければと思います。

●電子出版の制作・流通構造とは?
 電子出版の構造で重要なのは、ライツ・ワークフロー・ビジネスモデルの三つです。
 ライツ面では、従来、出版物は著者と共につくってきていますが、その多くはデジタルでの利用許諾をいただいていませんでした。ほとんどの出版社が、昨年からデジタルでの許諾も同時に得はじめています。
 ワークフロー面は、ファイルフォーマットだけとっても様々なものがあり、まだ確立していません。そういった意味では、報道で言われる「電子出版になると安くなる」というのは一部誤解があります。たしかに流通構造部分の一部は安くなりますが、制作においては、電子出版はまだ紙の出版物よりもコストがかかります。したがって、今後はより多くの電子出版物が発行されることが前提に、ワークフローの合理化や効率化を図ってコストセービングをして、顧客に提供できるようにしていく検討も必要です。
 また、ビジネスモデル面ですが、従来の出版流通は、再販制度のもとで形成されていた市場です。しかし、日本は電子出版については再販制度がない方針となったため、新たなマーケットとしてまだ整備すべき点が多いといえます。

●電子出版の価値とは?
 電子出版の価値は、従来の紙では「見る」「読む」「楽しむ」といった価値があります。デジタルでは、それに「使う」「共有する」という価値が加わります。
 別の観点として、デジタルコンテンツには3つの種類があります。「レプリカ」「リフロー」「インタラクティブ」というモデルです。レプリカモデルは紙と同じレイアウトのもので、現在出ている電子出版のほとんどがこの形です。リフローモデルは、端末にあわせて文字サイズやレイアウトが変化するもので、今後のアクセシビリティ対応にとっても重要となります。
 また、インタラクティブモデルは、画像や映像・音楽等のコンテンツとも連携するもので、出版の世界観に新たな付加価値を加わるものです。例えば、紙の出版物では、多くの写真を提供したくても誌面に限界がありましたが、インタラクティブモデルであれば、写真を複数点同時に紹介したり、地図や映像と連携することが可能となります。同時に、WebやSNS連携により読者とのコミュニケーションも増やすことができます。

●アクセシビリティとは?
 本日お集まりいただいております図書館関係者の方々には、ぜひ、アクセシビリティについて考えていただきたいと思っています。2010~2012年に、私も所属しています日本雑誌協会のプロジェクトでデジタル雑誌の実証実験を行いました。その際に視覚障害者の団体の方や個人の方からお問い合わせをいただき「、雑誌を見たことも聞いたことも読んだこともない。書籍も少ない。ぜひ、有償でいいから読みたいし聞きたい。」というお声をいただきました。それまで、アクセシビリティとは、ボランティアで無償提供しなければいけないものと思いこんでいましたが、それは私の先入観でしかありませんでした。同時に、私たちはこうした方々に何も対応できていなかったことを深く反省しました。読みたいという方たちすべてに、読んでいただける環境をデジタルだからこそ提供できるのではないかと考えています。それがアクセシビリティの原点です。

●電子出版におけるアクセシビリティとは何か?
 アクセシビリティは、一般的な定義として「高齢者・障害者を含む誰もが、様々な製品や建物やサービスなどを支障なく利用できているか」とされています。情報やサービス・ソフトウエアにおいては、高齢者や障害者などハンディを持つ人にとってどの程度利用しやすいかということと同時に、マウスやソフトウェアなどをカスタマイズ可能にして使いやすくすることも求められています。
 電子出版では、まだ、こうしたユーザーへの対応が十分に検討されていません。例えば、米国のKindleやiPadなどはアクセシビリティ対応の一つとして読み上げ機能等を標準装備しています。そこで、電子出版のアクセシビリティについて私なりに再定義してみますと、「デジタルによって、出版物に近づきやすくなること。さらに情報やサービスを利用しやすく追求すること」ではないかと思っています。
 また、私は、電子出版におけるアクセシビリティの対象者のことを「読書障害者」と定義づけました。知的障害者や視覚障害者だけではなく、何らかの理由によって読書が困難な方は、すべて「読書障害者」の範囲となります。読書がしにくくなる理由は複数あります。高齢者が老眼で小さな文字が見えづらくなった、幼稚園児や小学校の低学年はまだ漢字を読めない、入院していて外出できない方などもそうです。指先に怪我をして、端末が一時的に使いづらい方もその範囲となります。
 その範囲で考えますと、65歳以上では約3,800万人。5 ~14歳は約1,157万人。入院中で外出できない方が約 120万人。視覚障害者が約30万人。矯正の必要な方は約 6,500万人。発達障害者は約45万人などですが、手が不自由な方や通勤が自動車のため移動中に本が読めない方々もその範囲となると考えています。
 このような方々を含めまして、電子出版であれば「誰にでも優しい出版が実現できる」のではないかというのが私の課題提起です。特に、日本は高齢化社会ですし、この対応は持続的・継続的に続かなければなりません。そのため、ボランティアだけでは続きませんし、すべてを国が支援できるわけでもありません。したがって、電子出版による「読書障害者」のための新しいアクセシビリティ・マーケットを創っていく必要があると考えています。
 例えば、高齢者の方々の例ですが、アメリカでのKindle 端末ユーザーを調査分析してみますと、61歳以上の方が 16%、51歳以上になると40%で、約半数の方々が50歳以上となります。また40歳以上を加えると約7割にもなります。日本も、電子出版専用端末のユーザーは同じ構造になると思われます。スマートフォンならば10~30歳代の若い方が中心に利用されると思いますし、タブレット端末の中では、マルチタブレット端末が30~50歳代で多く利用され、電子出版専用端末は50~60歳代の読書好きの方が多く利用すると推測されます。
 アクセシビリティ・マーケットは、既に60歳以上が約 3,800万人もいますので、この端末との関連性の視点も大切だと思っています。また、電流協の特別委員会で推定したところ、このアクシビィリティ・マーケットは、約10年後の2020年には、約1,500万人がその対象になり、約 3,000億円の市場規模になると予測されます(端末とソフトウェアで約2,500億円、コンテンツで約500億円)。
 また、こうしたアクセシビリティ・マーケットは、ボランティアではなく公平で適正な価格で提供すべきだと考えています。なぜならば、持続可能な市場を創っていかないとサービスを継続できないからであり、これは公共サービスも出版サービスも同様なのではないかと考えています。

●電子出版におけるアクセシビリティ技術とは?
 電流協では、2011年4月に総務省からの委託を受けて、電子出版のアクセシビリティ・マーケットを創るための技術としてどのようなものが必要かを調査研究し報告書を発表しました。
 それが、新ITC利活用サービス創出支援事業「アクセシビリティを考慮した電子出版サービスの実現」プロジェクト (https://aebs.or.jp/itc/index.html)です。
 アクセシビリティに対応した電子出版を制作・流通するには、まだ非常に複雑なプロセスが必要で、同時に様々な技術が必要になります。
 例えば、読み上げ機能(TTS)は、KindleやiPadには標準機能としてありますが、まだ国内では数機種しか対応していません。今後、TTSをはじめとする機能について、各端末メーカーの方々が対応していただけると考えていますが、そうなるとルールを作っていかなければいけません。
 ルールを作って共通化することで、共通的な制作ワークフローができ、充実したコンテンツも揃えられるという流れを生み出すことができると考えています。
 また、異なる端末間でも読めるという環境が必要になります。スマートフォン、タブレット端末、パソコンや携帯など、様々な端末がありますが、図書館においては、どのデバイスで読んでいただくかも重要だと思います。
 従来であれば、パソコンがメインでしたが、様々な端末の登場によって、今後はどのような形で提供をするのかを、お互いに検討すべきことだと思います。また、それが決まりますと、海賊版対策においても有効な手段が講じられ、複写防止や追跡も可能であれば安心してお互いに利用者に貸し出すことも可能となってきます。
 その点において重要なのがDRM(デジタル・ライツ・マネジメント)の技術です。これは、電子出版等のコンテンツを保護する技術で、著作者の保護を尊重しながらその提供手段を検討することが必要だと思っています。
 また、2011年3月11日の東日本大震災により、被災地には雑誌が届きませんでした。日本雑誌協会デジタルコンテンツ推進委員会では、復興支援プロジェクトとして、約百台のタブレット端末に、デジタル雑誌のバックナンバーをインストールして、東北三県の被災地に届け、被災者の方々の心のケアのために、届けています。
 これもアクセシビリティです。被災地には書店がなく、移動図書館にも限りがあります。こうした環境に対して読んでいただける環境をつくることは、電子出版によるアクセシビリティの一環だと考えています。紙で読んで楽しんでいる方を強引にデジタルに切り替える必要性はなく、デジタルの新しい特性を活かして新たに読んでいただける環境や被災地のように必然性がある環境に対して、まずは電子出版を提供するべきだと思っています。

●電子出版の近未来
 インプレスR&Dの調査によりますと、電子出版市場は 2010年650億円市場でした。2015年にはその約3倍の 2,000億円で、それに加えて電子雑誌が200億円となり、全体で2,200億円市場と予測しています。2020年では、個人的な見解ですが、紙の出版売上の2兆円に対して約 20%ぐらいになると思います。
 近未来におけるパラメータをどういった視点で考えていけばいいのでしょうか。私は、次のような視点が必要だと思います。一つは、「デバイス(端末)」の進化です。2015 年の予測ではスマートフォンが約2,000万台、タブレットは約700万台になると予測されています。しかし、それらの端末への提供を出版社も対応していきます。すべての図書館がすべてのデバイスを置けるわけではありませんので、図書館においてもどの端末でどのように利用者に読んでいただくのかが重要となります。
 もう一つの視点は、「コンテンツのデジタルによる新たな価値」です。紙とデジタルでは、その価値が異なります。
 紙はどの雑誌やどの書籍を読んでいるかということを読者・ユーザーがはっきり認識しています。また、デジタルにおいては、掲載情報をさらに調べたくなりその情報を利用したいという価値が深まります。この10年間のインターネットの発展によってこうした習性がユーザーにつくられたともいえます。
 さらに、雑誌や書籍など出版社が提供しているものと、通常のインターネット記事とは違うということを読者・ユーザーは理解しています。ソーシャルメディアの利用者が増えていますが、これはユーザーが発信する保証していないコンテンツです。電子出版物はリスクを背負って保証したコンテンツを提供しています。その視点で調査をしてみますと、若い方々でも雑誌や書籍の方がWebより信頼できるという意見が多く回答されています。デジタルだから無料というインターネットの習性は、電子出版物としてパッケージ化することで、有料でも読みたいと考える方々が約6割という調査結果もあります。
 その他、海外においても米国で25%、韓国で 69%、中国で 82%の方が日本のコンテンツを読みたいと考えています。デジタルによって、海外への対応も検討すべき時代となってきているのです。
 変化のパラメータとして、もう一つ重要な視点が「アグリゲーション(集約)」です。図書館においてもアグリケーションの視点が必要な時代となっています。総務省の知のアーカイブ研究会では、いわゆるMLAKが所有されている文化的な資産や地域の史料について、どのようにアーカイブするかということが研究されています。ここで重要な点はハブ組織となる中央図書館が地域図書館とどのように結び合いネットワークを形成するかということです。どのようにアグリケーションをして、利用者に閲覧いただける環境をつくるのかを検討することが必要となってきています。
 また、アプリケーションのアグリケーションも必要です。
 リアルでは、どの書店から購入しても書棚は一つです。デジタルでも、それぞれの書店の本棚や図書館と連動して、自分の本棚を作りたいという読者やユーザーのニーズに応えるために、電子出版の本棚機能をオープンに使っていただくものとして「オープン本棚」というオープンソースが立ち上がりました。
 また、出版社間のアグリケーションも重要です。電子出版物の支援・図書館に対する窓口機能として「出版デジタル機構(仮称)」が2012年に設立される予定です。出版物へのアクセスの確保や図書館と出版社のあり方、出版物の権利処理のしくみも検討されていきます。図書館の皆さまのお声をいただいて、お互いにとっていい関係性を創りあげていく時代になったと思っています。
 電子出版は、多くの読者の方に多くの出版物を読んでいただける環境を社会に創っていくことが最も重要なことです。そのためには、各立場の関係者の方々同士でコラボレーションをして、読者やユーザーに対するアクセシビリティを考え、そのユーザビリティを上げることによって、誰にでも優しい電子出版を目指していきたいと考えています。

【講演終わり】

【本文終了】